岸井ゆきの×三宅唱が『ケイコ 目を澄ませて』に込めたものとは? “まなざし”の表現力

岸井ゆきの×三宅唱が『ケイコ』に込めたもの

「全員が岸井さんを真剣にみつめ、吸い寄せられ、また引っ張られるようにして、1ショット1ショットを丁寧に積み重ねていくという現場でした。さらに、三浦さんがご自分の出番がなくても、カメラや照明などをセッティングしている間も、静かに立って全体を見つめてくださっている。緊張感と、全員で一緒に物を作っているんだという興奮が混ざり、いい時間だったと思います。スタッフも全員マスクをしていますので、相手の目を互いにみてコミュニケーションを取る機会が増え、自然とグルーヴ感が生まれていったようにも思います」(三宅唱)

 岸井もまた、「撮影で印象に残ったエピソード」について、次のように語っている。

「会長が入院した後、一人でジムの鏡を磨くシーンで立ち位置でセッティングを待っていたんです。ふと振り向くとスタッフの皆さんがじっとわたしを見つめていたんです。それはわたしを、ケイコを、何も言わず信じて見守る眼差しで。ケイコが今、誰もいないジムで感じているのは、まさにこの眼差しなんだと思いました。もしかしたら私、この映画を背負えているのかなと初めて思うことができました。忘れられない大切な景色をいただきました」(岸井ゆきの)

 岸井が演じる「ケイコ」の姿をじっと「見つめる」のは、共演者やスタッフだけではない。そもそも、この映画を観ている我々こそが、彼女の一挙手一投足を、固唾を飲んで見つめることになるのだから。劇伴をいっさい使うことなく、キュッキュと軽やかにステップを踏みながら、バスッバスッと重いパンチを繰り出すボクサーたちの「音」に耳を傾けているうちに、あるいは街の喧騒や高架を走る電車の音、さらには川の流れといった「環境音」に耳を傾けているうちに――耳を澄ませるのが先なのか、目を澄ませるのが先なのか、観る者の五感は、次第に研ぎ澄まされてゆくのだった。ところで「目を澄ます」とは? 本作のタイトルに込められた意味について、三宅監督は次のように説明している。

「編集中に、これは主人公の名前をタイトルに冠すべき特別な作品ではないかという考えに至りました。そのような作品を、岸井さんも僕も、今後の人生でまた撮れるかどうかわかりません。ただ、『ケイコ』だけではなくサブタイトル的な言葉もほしいとプロデューサーサイドから相談があり、僕から『目を澄ませて』というフレーズを提案しました。説明すると多少野暮になってしまいますが、まずボクサーと手話話者には『目』を見ることが共通していますし、コロナ禍を生きる我々の多くもお互いの『目』を見ることを日々実感していると思います。それから、我々人間はどうしたって先入観や偏見というものを持ってしまう生き物だと僕は思っているのですが、その上で、この映画を通して何か新しいものが見えればうれしいなと願い、『澄む』という言葉を選びました」(三宅唱)

 コロナ禍の東京で撮影された、コロナ禍における人々の「情況」を描いた作品であることはもとより、主演俳優と監督のいずれもが「このような経験は、2度とできるものではない」と口をそろえて語る本作。文字通り大活躍の一年となった、岸井ゆきのの2022年を締め括ることになるであろう「まなざし」の映画『ケイコ 目を澄ませて』は、12月16日よりテアトル新宿をはじめ、全国でロードショー予定だ。

■公開情報
『ケイコ 目を澄ませて』
12月16日(金)公開
出演:岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子、三浦友和
監督:三宅唱
脚本:三宅唱、酒井雅秋
原案:小笠原恵子『負けないで!』(創出版)
制作プロダクション:ザフール
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2022年/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/99分
©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINEMAS
公式サイト:https://happinet-phantom.com/keiko-movie/
公式Twitter:@movie_keiko

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