ホラー映画の強みを生かした『Smile』が北米No.1 恐怖の野球中継プロモが話題に
2022年秋の北米映画興行に、思わぬ伏兵が登場した。9月30日~10月2日の週末ランキングでNo.1に輝いたのは、奇策のプロモーションが日本でも話題を呼んだ“笑顔が怖い”ホラー映画『Smile(原題)』。公開後3日間で北米興収2200万ドルを記録し、想像以上のスタートダッシュとなった。
“その笑顔を見たら、1週間以内に死ぬ”。主人公の精神科医・ローズ(ソシー・ベーコン)は、ひとりの患者が笑いながら自分の顔を切り裂いて死亡する現場に居合わせてしまった。その患者は「自分にしか見えないものを見てしまった」と言い残すが、その真相はわからないまま。しかしその後、ローズの身に説明のつかない出来事が降りかかる。調査したところ、その笑顔を見た者は、必ず1週間以内に死亡しているのだ。ローズはなんとか生き残ろうと手を尽くすが……。
『リング』(1998年)を思わせる本作だが、笑顔が死を招くという独創的な設定とストーリーテリングが好評を博し、Rotten Tomatoesでは批評家スコア75%、観客スコア80%を記録。観客の出口調査に基づくCinemaScoreでは「B-」と、賛否が分かれる傾向にあるホラー映画としては高水準となった。
製作・配給のパラマウント・ピクチャーズは、もともと本作を自社の映像配信サービス「Paramount+」にてリリースする計画だったが、試写での評価が高かったことから劇場公開に変更。製作費は1700万ドル(宣伝・広報費除く)だから、黒字化は早くも確定した格好だ。
劇場公開にあたり、パラマウントはSNSやTVスポット戦略のほか、テレビの生放送に“笑顔”を送り込むという奇策を展開。9月23日(米国時間)、メジャーリーグのアスレチックスvsメッツ戦、ヤンキースvsレッドソックス戦の客席に、不気味な笑顔を浮かべながらカメラを見つめ、微動だにしない観客を出現させたのだ。
笑顔の観客は、ほかにもドジャースvsカージナルス戦の客席や、朝の情報番組「TODAY」の収録スタジオの外にも出現。ところかまわず恐怖を感染させるプロモーションで、SNSを中心に「怖すぎる」と大きな話題を呼んだ。
それにしても3日間で2200万ドルという滑り出しは、ここ最近の北米市場では珍しい成績だ。同じくホラー映画として週末ランキングの首位をつかんだ『Barbarian(原題)』は1000万ドル、『The Invitation(原題)』は700万ドルだったし、そもそも初動が2000万ドルを超えるのも『ブレット・トレイン』(北米公開8月5日)以来。フローレンス・ピュー&ハリー・スタイルズ共演の『ドント・ウォーリー・ダーリン』をも上回るとは、いったい誰が予想しただろうか。監督のパーカー・フィンは本作が長編デビュー、出演者もソシー・ベーコン(ケヴィン・ベーコンの愛娘である)をはじめスター俳優の名前はない。キャスト&スタッフの知名度で集客できる余地はなかったのである。
ただしホラー映画の強みは、出演者のネームバリューにかかわらず、その“怖さ”を武器に幅広い客層に訴求できるところ。年齢層こそ18歳~34歳が全体の68%とやや若めに偏ったが、人種・民族としては40%が白人、32%がヒスパニック&ラティーノ、16%が黒人、7%がアジア系と多様な層の心をつかんだ。海外市場でも1450万ドルを記録し、すでに全世界累計興収は3650万ドルとなっている。
残念ながら『Smile(原題)』の日本公開は未定だが、パラマウント配給&これだけのヒットとあって、日本国内でも工夫の凝らしたリリースに期待したくなるというもの。良い知らせが到着することを祈るばかりだ。