『鎌倉殿の13人』小栗旬、溢れ出す涙に込めた“小四郎”としての最後 執権・義時が誕生

『鎌倉殿の13人』小栗旬の壮絶な涙の名演

 『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第38回「時を継ぐ者」。北条時政(坂東彌十郎)とりく(宮沢りえ)は源実朝(柿澤勇人)を屋敷へと連れ込み、鎌倉殿の座を娘婿・平賀朝雅(山中崇)へ譲るように迫る。対する義時(小栗旬)は泰時(坂口健太郎)、時房(瀬戸康史)らを引き連れて、時政の屋敷を包囲し、攻め込む機会を見定めていた。

 政子(小池栄子)が娘として父を討たないでほしいと頭を下げたこともあり、最終的に時政とりくは伊豆へ流罪となる。小栗の演技が、父を思う義時の本心をじっくりと見せてくれた。父をも討ち取る覚悟を決めていた義時だが、時政に今生の別れを告げるとき、徐々にその顔は御家人から時政の息子へと変わっていく。

 頼朝(大泉洋)に仕えてきた義時はこれまで数多くの非情な決断を下してきた。その中で多くの死を見てきた義時は、感情を抑え込み、悲しみに蓋をするようになっていた。時政と対峙する場面でも、序盤はその表情を崩さない。時政に「よう骨を折ってくれたな」と言われた義時は、そっけなく「私は首をはねられてもやむなしと思っておりました。感謝するなら、鎌倉殿や文官の方々に」と返す。

 ずっと目を伏せていた義時が時政の顔を睨みつけたとき、その表情には怒りが感じられ、語気は、御家人として時政と向き合う義時と同じく、暗く、重い。けれどその声色は、父に言葉をかけていくうちに、父との別れを惜しむ“小四郎”の口調へと変わっていく。涙を堪えながら「父上は常に私の前にいた」と口にする義時だが、「私は父上を……」「私は……」と口籠もってしまう義時の声は、御家人の一人ではなく、父親を慕う息子の声だ。抑え込んできた感情が溢れ出す。

「父が世をさる時、私はそばにいられません」
「父の手を……握ってやることができません」

 義時は顔を歪めて涙を流す。「あなたがその機会を奪った」と涙する表情は幼子のように純粋な悲しみに満ちている。

 時政の屋敷を包囲していたときは、政子や泰時、時房に厳しく接していた義時だが、彼らと同じ父への思いを心の奥底に秘めていたように思う。実朝から直々に時政の処分を軽くするよう頭を下げられたとき、義時は顔色一つ変えなかったが、本当は誰よりもそのことに安堵し、父と二度と会えないことへの深い悲しみに暮れていたかもしれない。義時が感情を表に出さなくなったことで、彼の真意はとても掴みにくいものになったが、時政と向き合う義時が息子の顔をしていたのは明らかだ。時政は別れ際にウグイスの話をする。唐突な話題だったが、息子との別れの時を穏やかに過ごそうとする父親の優しさが感じられた。父の優しさに応えるように、義時は泣き顔のままふっと微笑み、そのままぼろぼろと泣いた。

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