リヴァプールが舞台の新ドラマ  『レスポンダー 夜に墜ちた警官』が描く、人々の矜持

 その一方で、クリスは新しいパートナーをあてがわれる。新人警察官のレイチェル(アデラヨ・アデダヨ)だ。若く、まっすぐな正義感に燃え、さらにとある人物からクリスの内偵調査を依頼されている彼女は、警官の規範から外れたような行動を繰り返すクリスに、あからさまに不信感を募らせるのだが……彼女もまた、私生活に大きな問題を抱えているのだった。妻子を養うために薬物売買に手を染めたカールが、完全な「悪人」としては描かれていないように、本作の中には「清廉潔白」な人間などひとりも登場しない。その誰もが生活のため、あるいは誰かのために、白と黒では分けられないグレーゾーンの世界を生きている。しかし、ケイシーの出来事をきっかけに、複雑に入り混じりながらもかろうじて均衡を保っていた状況が、みるみる崩れ去ってゆくのだった。夜を越えるごとに悪くなっていく一方の事態の中で、やがてひとりの命が失われる。

 ひとりの警察官が、内なる「正義」と葛藤する、よくある警察ドラマとは異なり、本作の主人公であるクリスがその仏頂面の内面で強く願うのは、「よき人」であることであり「よき行い」をすることにある。それは必ずしも「正義」とは一致しない。無論、「法律」とも。警察官であるにもかかわらずである。というのも、彼は警察官である以前に、「リヴァプール」という街で生まれ育った人間なのだから。その意味で、本作の真の主人公は、リヴァプールという街、そのものなのかもしれない。古くは港湾都市として栄えながら、現在は失業者で溢れる街、リヴァプール。その治安はけっしてよいものではない。「公助」からも見放され、限りなくグレーな世界の「自助」によって成り立ってきた、この街で生まれ育った主人公・クリスは、その最後にどんな選択をするのだろうか。そのヒントは、彼らの心の拠り所でもあるリヴァプールFCの応援歌として、広く世界に知られている「歌」にあるのかもしれない。「ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン」――君はひとりじゃない。「スカウス」と呼ばれる強烈なリヴァプールなまりによって繰り広げられる本作『レスポンダー 夜に墜ちた警官』は、リヴァプールという街の「現状」を描くと同時に、その街で暮らす人々の「矜持」を描き出したドラマでもあるのだ。その後味は、けっして悪いものではない。

荒ぶるマーティン・フリーマン【本予告】海外ドラマ『レスポンダー 夜に堕ちた警官』8月10日(水)スターチャンネルEXにて独占配信スタート

■配信・放送情報
海外ドラマ『レスポンダー 夜に堕ちた警官』(全6話)
・字幕版
スターチャンネルEXにて、独占配信中
10月13日(木)まで期間限定第1話無料配信中
・字幕版
BS10 スターチャンネルにて、毎週月曜23:00ほか放送
主演・製作総指揮:マーティン・フリーマン
出演:アデラヨ・アデダヨ、イアン・ハート、マイアンナ・バーリング ほか
脚本・クリエーター:トニー・シューマッハ
音楽:マシュー・ハーバート
監督:ティム・ミーランツ、フィリップ・バランティーニほか
Rekha Garton ©2021 Dancing Ledge Productions
©2021 Dancing Ledge Productions, Photographer Rekha Garton.
公式サイト:https://ex.star-ch.jp/special_drama/gQdq6

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