竜星涼、『ちむどんどん』で証明した演技力の高さ 賢秀が“ちむどんどん”する未来を信じて
第112話では、清恵と再会を果たすも彼女に拒絶された賢秀が、やけ酒をしながら三郎に本音を漏らすシーンが印象的だった。そこで、彼は本当に自分の今の仕事が好きで、続けていきたい意志があることを明かす。しかし、これまで彼は豚の世話の仕事を家族はもちろん、周囲にひた隠しにしてきた。そこには、自分があれだけ「ビッグになる」と豪語してきたから故の、プライドによる恥ずかしさもあるのだろう。そして、“長男”として家族を任されたからこそ、家族が余裕を持って暮らせるように一攫千金を狙っていたのではないだろうか。
豚の仕事を通して「こうやって一生働いていこうとだんだん、自分が変わってきた」とも吐露していたが、今更周りにそう打ち明けたところで「またいつも通り、口だけ」と信じてもらえないかも、という恐れもあるかもしれない。何より、あれだけ失敗を重ねてきたからこそ自分自身がもう、自分自身の選ぶ決断を信用して、誇りを持ってあげられないのかもしれない。そう考えると、賢秀というキャラクターはコメディリリーフに見えて、実は作品の中で最も悩ましい人物なのである。
それでも、彼は自分をそういう考えにさせてくれた清恵を信じることはできる。そんな彼女だから大事に思っている。無自覚だった感情がようやく表面に浮かび上がってきた時、彼は急いで清恵のもとへ向かい、彼女を抱きしめた。
なぜ、この作品の大詰めで賢秀の物語を扱うのか。それは、まだ彼の抱える根本的な問題……自らが、自分自身を幸せにするための道をまだ選ぶことができていないキャラクターだからではないだろうか。ビッグにならなくてもいい、誰かのためになろうとしなくていい。自分で繰り返して豪語していたその呪いにも近い観念から自らを解放したとき、賢秀にとって“ちむどんどん”する未来が待っていると信じている。
■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK