『ベター・コール・ソウル』はエミー賞受賞なるか? スピンオフ作品が愛される理由を考察
製作者と視聴者の合意のうえに成り立つスピンオフ
『ベター・コール・ソウル』も『ピースメイカー』も、前日譚と後日談という違いはあるが、キャラクターを深堀りするという意味では同じだ。そしてそれはどちらも、オリジナル以上にファンの期待を背負ってスタートする。視聴者はすでにキャラクターや世界観について興味や知識があり、基本的にそれが自分の気に入るものであることが予想できる。そのうえで、どんな新しいものを見せてくれるのか期待する。製作者もその期待に応えようと使命感を持って取り組む。ファンの期待はときにプレッシャーや守りの姿勢につながってしまうこともあるが、それが良い方向に作用したとき、傑作スピンオフが生まれるのだ。視聴者と製作者は作品の世界観やキャラクター像を共有し、ある意味で合意のうえで新たな物語が紡がれていく。作品世界をどう継続させるか、あるいは発展させるかは製作者に委ねられるが、ファンの期待を良い意味で裏切り、上回ることがスピンオフ成功の必須条件だ。ファンと製作者の間で“解釈違い”や“キャラ崩壊”を起こすことは、できる限り避けたい。例に挙げた2作品は、攻めの姿勢でキャラクター像を深め発展させながら、作品世界を一層魅力的にすることに成功した。
現在も注目のスピンオフ作品は続々と製作されている。8月22日からはU-NEXTで『ゲーム・オブ・スローンズ』のスピンオフ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の配信が開始された。これは『ゲーム・オブ・スローンズ』の物語の約200年前を舞台とする前日譚で、物語の鍵となったターガリエン家の終わりのはじまりが描かれる。ジョージ・R・R・マーティンの小説『炎と血』を原作とし、おなじみのキャラクターは登場しないが、作品の世界観やのちに没落してくターガリエン家についての理解をより深めるものになるだろう。
また『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのスピンオフ『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』も、2022年9月2日からAmazon Prime Videoで配信開始された。すでに5シーズンに渡って壮大な物語が描かれることが発表されている。こちらも『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』シリーズの数千年前を舞台とした前日譚だ。やはりキャラクターを深堀りするというよりは、世界観の解像度を上げていく作品になると予想される。
多くのファンを抱える作品は、スピンオフ製作を期待される。夢中にさせてくれるドラマが終わることを望まない人は多い。「終わらないでほしい」というファンの願いに応えるために、スピンオフというかたちで作品は蘇り、つづいていく。しかしその期待どおり、もしくはそれ以上にファンを楽しませ、再び夢中にさせるスピンオフを作るのは至難の業だ。とくに伝説的ドラマのスピンオフとして、オリジナルに負けずとも劣らない完璧なエンディングを迎えた『ベター・コール・ソウル』は、今度こそエミー賞の栄冠を手にすることができるのか注目したい。
■配信情報
『ベター・コール・ソウル』シーズン6
Netflixにて配信中
©︎Joe Pugliese/AMC/Sony Pictures Television