劇団ひとりが描き続ける“人情”の形とは? 監督・脚本作『無言館』に至るまで
また、上手くいかない親子関係が描かれるのも印象的だ。
『陰日向に咲く』では全く別の時間軸で進んだ話が、あるタイミングで合流した後、複雑な親子関係が明かされる。また『青天の霹靂』では、轟晴夫(大泉洋)が高校生の時に家を出て以来、会っていなかった父・正太郎の死を警察に知らされてから物語が始まる。『浅草キッド』では直接的な親子関係は描かれないが、ビートたけしと師匠の深見千三郎の関係は擬似的な親子に近く、後年、疎遠となった2人が描かれる。もちろん、多くの映画やドラマで上手くいかない親子関係は描かれ続けているが、同様のモチーフを一貫して描き続けるのは、恐らく、劇団ひとり自身が描く必要があると考えてのことであろう。
そして、興行収入は11.8億円で2014年の興行収入ランキングでも37位と、初監督作品としてはなかなかな『青天の霹靂』の成績を踏まえると、その後も、彼のもとには映画監督としてのオファーは少なからずあったはずで、それでも、単なる商業映画の監督を務めなかったことは、映像作家としての彼のこだわりの強さの現れだろう。
そんな彼が、初めてドラマの監督・脚本を務めるのが、8月27日放送の24時間テレビ45スペシャルドラマ『無言館』である。公式サイトを見る限り、「戦争で亡くなった画学生の絵を集めた美術館「無言館」設立のために全国を駆け巡ったある男を、実話をもとに描くヒューマンストーリー」とのことだが、詳しいストーリーは明かされていない。(※1)現時点の情報では、浅草とも昭和40年代との関連も見えてこないが、親子関係はどうだろうか。実在の「無言館」を物語の舞台として選んだのも劇団ひとり自身とのことなので、過去作で描かれてきたモチーフと、どのような関連性があるのかも意識して観たい。
また、過去作では、本業とも言える芸人としての能力を活かした笑いの要素(漫才シーンがしっかり面白い映画やドラマは稀有だ)が物語を駆動してきた面もあるが、本作では、ストーリーを見る限り、なかなか笑いの要素が入り込む余地は無いように思える。
監督・脚本家としての劇団ひとりの新たな一面を観ることができるか、楽しみに待ちたい。
参照
※1. https://www.ntv.co.jp/24h-drama2022/#top-intro
■放送情報
24時間テレビ45スペシャルドラマ『無言館』
8月27日(土)21:00時ごろ〜放送予定
監督・脚本:劇団ひとり
出演:浅野忠信、大地康雄、笹野高史、でんでん、由紀さおり、檀ふみ、皆川猿時、渡辺真起子、八木莉可子、影山拓也、寺尾聰ほか
チーフプロデューサー:田中宏史
プロデューサー:大倉寛子、阿利極(日テレアックスオン)
特別協力:戦没画学生慰霊美術館 無言館
制作協力:日テレアックスオン
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