NYの奥底で暮らす母娘が星を求めて 『きっと地上には満天の星』は心震える愛の物語

『きっと地上には満天の星』は愛の物語

 舞台装置は極めて少ない。まず、地下の地下である廃トンネル。次に、立ち退きを迫られ、しかたなく地上に出るしかなくなった母子が這い上がった先の地上である、地下鉄のホーム。さらにその上、ニッキーが訪ねて行ったギャングのレス(ジャレッド・アブラハムソン)の部屋がある、地上。地下で、頭上を通り過ぎる地下鉄の音を聞いていたリトルが、地上に繋がる、はね上げ戸を押し上げた瞬間、間近に迫ってくる地下鉄の音を聞いて驚いたり、その地下鉄に彼女たち自身が乗ったりと、作品の構造上、上へ上へと向かう母子は一見、明るい未来に向かって、着実に進歩を遂げているように見える。しかし、だからといって、彼女たちが望んだままの幸せな未来に向かっていくわけではなかった。そもそも母が子についた「普段はたたんで背中にしまっているけれど、母には翼があるから地上にいけるのだ」という切なくも美しい嘘と、現実とのギャップからして、現実の地上、2020年のNYの街は、地下よりももっと、彼女たちにとって厳しかったのである。

 冷酷なギャングであるレスが、不思議と優しい声色で、初めて見た窓ガラス越しの夜景のキラキラと輝くさまを「死んだ星」の光景だと勘違いするリトルに向かって、「ビルの明かりが強すぎて本当の星は見えないけれど、でも星はちゃんと空にある」のだと言う場面がある。たとえ星が肉眼で見えなくても、確かにそこに存在しているように、社会から疎外され、それしか方法がなく、その存在を隠されている子供、いわば“インビジブルピープル”である彼女たちも、ちゃんとここにいる。ニッキーの背中にある翼も、リトルに生えるかもしれない翼も、彼女たちに見えるのならちゃんとそこにある。そして、その翼でもって少女はもっと高いところに舞い上がり、いつかきっと本当の満天の星空を目の当たりにする。そうなることを祈らずにはいられない映画である。

映画『きっと地上には満天の星』予告編

■公開情報
『きっと地上には満天の星』
全国公開中
監督・脚本:セリーヌ・ヘルド、ローガン・ジョージ
出演:ザイラ・ファーマー、セリーヌ・ヘルド、ファットリップ、ジャレッド・アブラハムソン
配給:フルモテルモ/オープンセサミ
2020年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/カラー/5.1ch/90分/原題:Topside/日本語字幕:福永詩乃
(c)2020Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.
公式サイト:https://littles-wings.com/

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