『モンスターズ・インク』が教えてくれる、恐怖に勝る相互理解 大人向け作品としての魅力

 6歳の私は、部屋の明かりを全て消して寝ることができなかった。暗闇から何かがこっちを見ていて、目を閉じた私を襲うのが怖かったのだ(実は今でも怖い)。しかし、そんな6歳の私……いや、世界の子供にその闇に潜む存在――私たちが怖がる相手こそ、実は私たちを怖がっているんだよと教えてくれた映画が『モンスターズ・インク』である。

“大人たちの日々”を描いた作品としての新鮮さ

 大人になって観直してみると、本作がある意味かなり大人向けに作られていることがわかる。ピクサーが「おもちゃの世界」で身近な相手とのコミュニケーションを、「虫たちの世界」で他グループとのコミュニケーションを描いた後に選んだ作品は、会社や社会というさらに大きな共同体を「モンスターの世界」を通して描くことだった。実は『モンスターズ・インク』はピクサーが初めて最も“現実社会的なもの”を題材にした映画なのだ。

 舞台はモンスターの住む世界の大企業、モンスターズ・インク。ここでは日々、最も成果を上げた社員が社長のお気に入りでいたり、嫌味な同僚が仕事の邪魔をしてきたり、仕事のミスを全力で相棒と隠蔽しようとしたり、管理職のおばちゃんにめっちゃ詰められたりと大人たちが平日向き合う物事がたくさん取り沙汰されている。子供にとっては、映画を観進めていくうちにクローゼットのモンスターに対する恐怖心をなくすことができるだけでなく、親が「行ってきます」と玄関の“扉”を出た後にどんな場所に行って、どんなことをしているのかを知るヒントになる。

 一方、大人側は子供部屋の“扉”を開けることで、自分たちがかつて抱いていたクローゼットのモンスターへの恐怖を通して子供心を思い出せるだけでなく、会社のあれこれに追われる主人公のサリーやマイク、もしくはランドールに共感できることだろう。ランドールは「ズルをしてまでノルマを稼ごうと、成績優秀な同僚を陥れようとした」ことで悪者っぽく描かれるが、最終的に “本当の悪”として描かれたのは「不正を犯して自社利益をあげようとした」社長なのも興味深い。ランドールが完全な悪者じゃなくて、ちょっと不器用で気の毒そうなやつとして映っているのも、彼なりに成績をあげようとしたかったことが理解できるからだ。

 そして優秀な社員(サリー)は、さらなる高みを目指したいのであれば雇用を離れ、起業して雇用する側になれというラストのメッセージ性も、ビジネスマンに響くものである。

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