グルメドラマとグルメバラエティの接近 グルメ紹介はストーリー性に重きを置く傾向に?

“グルメドラマ”と“グルメバラエティ”の接近

 たとえば、話題の『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(中京テレビ・日本テレビ系)は、値段が安くて大盛りの店を紹介するだけにとどまらず、人情味あふれる店主にまつわるエピソードなどがドキュメンタリータッチで紹介される。プロデューサーの笠井知己は同番組について、「店主がどういう思いで作っているのか、お客様のためになぜそこまでやるのかという部分をつきつめる、店主の生き様にスポットを当てる、人にフィーチャーする番組」と説明しているが(※1)、店主の思いにスポットをあてた『絶メシロード』や、個性的な店主がドラマにそのまま登場する『今夜はコの字で』などと共通点が見られる。

『絶メシロード』(c)テレビ東京

 今春からスタートした『タクシー運転手さん一番うまい店に連れてって!』(テレビ東京系)は、ストーリー性、ドキュメンタリー性はそれほど強くないものの、登場するタクシー運転手や店主たちの人間味が隠し味のように効いている。タクシー運転手が客をお気に入りの町中華に連れていく『ザ・タクシー飯店』とコンセプトが同一と言っていいだろう。白米に合う最高のおかずを求めて主人公が旅に出る『しろめし修行僧』は、『ZIP!』(日本テレビ系)で放送されていた「日本全国うまいもんジャーニー」を思い起こさせる。

 グルメ情報バラエティと実在の店が登場するグルメドラマは、視聴者が観た後に店に行きたくなるという点で同じだと言える。『孤独のグルメ』や『きのう何食べた?』(テレビ東京系)などを手がけたテレビ東京の阿部真士プロデューサーは同局のグルメドラマについて「ドラマの形をしたグルメ情報番組みたいなもの」とはっきり語っている(※2)

 グルメ情報バラエティに関しては、タレントのリアクションや料理の感想を的確に伝える食レポ、一度に複数の店を紹介する情報量、派手なセットや演出などに優位性がある。ながら見しても困らない作りも特徴の一つだ。では、グルメドラマの優位性は何だろうか。

 ひとつは視聴者の没入感だろう。『孤独のグルメ』をはじめ、グルメドラマでは主人公が食べながら心の声を語るモノローグ(ひとり語り)が多用されるが、『絶メシロード』(テレビ東京系)や『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)などを手がけたテレビ東京の寺原洋平プロデューサーはモノローグについて「視聴者が主人公に自己投影するための手段」と説明している(※2)。腹を減らした主人公が店を探す経緯、入りにくい店に思い切って入っていく様子なども、視聴者の没入感を促している。

 もう一つの大きな優位性は、俳優たちの表現力だ。グルメドラマでは料理や店が主役になることも多いが、『孤独のグルメ』が井之頭五郎を演じる松重豊抜きでは成立しなかったように、それを食べる俳優たちの力量が成功を左右すると言ってもいい。ドラマの登場人物たちのいかにも美味しそうに食べる様子、嬉しそうな表情は、否応にも視聴者の食欲を刺激する。これこそ、グルメドラマにしかできない表現だ。チャーハンを頬張る『ザ・タクシー飯店』の渋川清彦、白めしを夢中でかきこむ『しろめし修行僧』の岡部大は、グルメドラマ界のニュースターになるかもしれない。

 グルメドラマ特有の穏やかでまろやかな雰囲気も、賑やかな演出の多いグルメ情報バラエティにはないものだ。ドラマの持つ雰囲気は、実際に店を訪れるファンの様子にも影響を与えることがある。『孤独のグルメ』の聖地巡礼は、井之頭五郎のように一人で店を訪れて、静かに行儀よく食べるファンが多いのだという。グルメ情報バラエティを見た視聴者が、グループで店を訪れて賑やかに食事を楽しむ様子とは対照だ。

 グルメドラマとグルメ情報バラエティは今後も似通ってくるだろうが、その一方で、グルメドラマはグルメ情報バラエティには出せない個性的な“味”を強く打ち出してくるはずだ。個性あふれる店のようなグルメドラマの味を今後も楽しみしたい。

参照

※1. https://www.hbf.or.jp/magazine/article/hbf2021_ent
※2.https://www.hotpepper.jp/mesitsu/entry/daiki-hayakawa/2020-00228

■放送情報
『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』
日本テレビ系にて、毎週火曜19:00~放送
MC:ヒロミ
進行:小峠英二
(c)中京テレビ

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