『石子と羽男』が問う“ファスト映画”問題 空を見上げるしかなくなった有村架純と中村倫也
「何がいけないんですか? 本当わかんないんです。権利持ってないヤツが作っても、結果的に映画の宣伝になってたらいいじゃないですか!」
その動画で収益を得ようとしているわけではない。自分の好きな映画の魅力を伝えようとしただけ。「観たくなった」とコメントしてくる人もたくさんいた……そう主張する大学生・山田遼平(井之脇海)に、あなたならどうやって「著作権法違反」の罪深さを伝えるだろうか。
金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)では、第1話、第2話と誰の身にも起こりうる揉め事を法の力で解決していく様子が描かれてきた。「声をあげてください」と訴える石子(有村架純)のメッセージから、街の弁護士が身近な存在に感じられた人も少なくないはずだ。世の中そんなに悪いことばかりではないかもしれない、そんなポジティブな気持ちも生まれたことだろう。
だが、第3話となる今回は少々毛色が異なった。カフェの無断充電トラブルや、職場のパワハラ問題、未成年のゲーム課金にアカウント乗っ取りと、これまで描かれてきたトラブルは、少なからず当事者に「本当はやってはいけないことだけれど……」という罪の意識があったように思う。何かに追い込まれたことで、あるいは他の選択肢が見えなくなってしまったことで社会のルールを逸脱してしまった人たちは、きっとすぐに反省し、また再出発を目指すことができる。
ところが、今回の依頼人である山田遼平には、その罪悪感がまったくなかった。むしろ良かれと思っている節まであり、その態度に国選弁護人となった羽男(中村倫也)も大苦戦。執行猶予をつけるためにも、なんとか反省の弁を引き出そうとするが、本人にその気がないのだからうまくいくわけがない。自分は悪くない、そう思っている人に、自分の罪を理解させ、さらに悔い改めさせるというのは容易ではないのだ。
「ファスト映画は著作権法違反になる」というのは広く知れ渡っていることだろう。だが「違反だからダメ」では、遼平の心は動かせない。そこで石子と羽男は、彼がファンだという映画監督・山田恭兵(でんでん)の最新作を紹介するファスト映画を見せることに。自分好みではない編集に「これでは魅力が伝わらない」「観る楽しみを奪われた」と憤慨する遼平だが、やっていることは同じことだと説得する羽男。
さらに、こうしたファスト映画が出回ることによって、映画本編を観たような気になった人が酷評レビューを投稿する。その映画の評判を見聞きした人が劇場に足を運ばなくなる。実際に、監督が身銭を切り10年かけて実現した映画は上映打ち切りになった。監督を慕って格安のギャラで快く出演してくれた俳優たちのキャリアにも影響が及ぶ。そして制作会社に利益が出ないということは、次の作品を生み出すこともできなくなる。