『鎌倉殿の13人』中村獅童、梶原景時として最後に見せた感情の揺れ “名刀”としての最期

『鎌倉殿の13人』梶原景時“名刀”の最期

 『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第28回「名刀の主」。若き鎌倉殿を補佐する13人の宿老による訴訟取り次ぎの評議が始まった。しかし宿老たちは、訴訟の当事者に旧知の名があるとそれぞれの当事者の味方をして便宜を図ろうとし、いがみ合う。梶原景時(中村獅童)は「これでは評議になり申さぬ」と怒り、評議は後日に延期された。

 第28回は、源頼朝(大泉洋)の御家人として徹底的に尽くしてきた景時の失脚が描かれた。

 かつて平家方の大庭景親(國村隼)に仕えていた景時は、石橋山の戦いに敗れて山中に隠れ潜む頼朝を発見しながらも見逃し、その後、頼朝の家人となる。御家人をまとめるために上総広常(佐藤浩市)を斬り、戦場で活躍した義経(菅田将暉)追討の要因をつくるなど、御家人たちからは不信感を抱かれていた。景時の厳格な政務は御家人たちの反感を買い、彼はとうとう弾劾されてしまう。しかし景時は、誰よりも頼朝に忠誠を誓い、源氏の世のために動いていた人物だった。

 中村は景時を演じる上で、表情変化を極限まで抑えているように思う。感情を表に出さない景時の胸の内は簡単には読めない。たとえば義経とのやりとりでは、義経の才に嫉妬しているようにも見える一方で、深い尊敬の念も感じられた。景時は頼朝亡き後、頼家(金子大地)を支えているが、純粋な忠誠心から頼家に助言しているようにも、頼家や自身に不満を持つ御家人たちと一線を画すために頼家を操っているようにも見える。

 視聴者は、景時が唯一心を開く相手である北条義時(小栗旬)との会話を見ているから、彼が鎌倉を守りたい一心で動いていることは理解しているはずだ。それでも景時の感情の読みにくさが、忠義を尽くしているだけなのか、実は私欲で動いているのか、といった疑念を抱かせる。広常を斬り伏せ、義経を追いやったことを知っている御家人たちからすれば、なおさら彼のことを信用できない。

 無表情に近い表情変化ゆえ、誤解されやすい人物像の景時だが、第28回では彼の感情の機微が最もわかりやすい形で溢れ出た。御家人たちから訴状を出され、頼家から「役目を解き、謹慎を申しつける」と判断を下された後の演技は強く心に残る。景時は後鳥羽上皇(尾上松也)から京に来るよう文が来たことを義時に伝えた。「いてもらわねば困ります」という義時の言葉を聞き、景時は一呼吸置いて「某はもはや……」と口にするが、その先の言葉が続かない。「行ってはなりませぬ!」と語気を強めた義時の方を向いた景時の目には涙が溜まっている。そして景時は静かにすすり泣いた。

 「某の過ちは己を過信したこと」とも語っていた景時は、すでに腹をくくっていたようにも感じられた。けれどあの涙は、鎌倉殿のために動いてきた自分の思いが通じなかったことや、己を信じて生きてきた道が誤っていたかもしれないことへの悔しさや虚しさや悲しさを表していたように思う。冷徹な人物ではあったと思うが、彼の豊かな情緒が溢れ出たあのワンシーンによって、景時失脚の虚しさがよりいっそう強く感じられた。

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