『六本木クラス』で再熱 パク・ソジュンを通して『梨泰院クラス』が伝える生きる力と勇気

『梨泰院クラス』が伝える生きる力と勇気

  「誰にも愛されたことがない」という次男のグンスは庶子であることから、“欲を出すな”、“分をわきまえろ”、“へつくろえ”「弱者が生き残る道は強者に寄生することだ」と言われて育つ。セロイに出会い、イソへの恋心から、セロイの敵となる行動を起こすが、実はデヒに似ているところが随分とあることがわかる。「弱肉強食」が一番好きな言葉だというデヒが最後にグンスによって、「食われてしまったんですよ」といわれるのは、因果応報を感じさせる言葉だ。グンウォンもグンスも、デヒが屋台を始めたころの思いのまま子育てをしていたなら、きっと違う人生があったのだろう。悲しい兄弟だが、まだ人生は続く、ふたりともまだ若い、これからの人生を自分のために生きてほしい。

 セロイと父の関係に言及して締めくくりとしたい。セロイが事件を起こし、父のパク・ソンヨル(ソン・ヒョンジュ)と初めてお酒を交わした時のお酒の味のシーンは有名なので、ここでは違うシーンを取り上げたい。セロイが事故で意識のないときに、生死の境を彷徨っているのであろうシーンとして、演出で“橋”を使ったエモーショナルで印象的な部分だ。あの世とこの世を隔てる“橋”。橋を渡るソンヨルに、セロイが「どこへ行くの?」と問う。ソンヨルはしばらく何も言わずセロイの顔を見つめるのだが、その表情がずっとセロイを見守ってきたのだなということがわかる顔だ。そして、「二度と、苦い夜が来ないところだ」と答える。セロイは橋に足を踏み入れない。

 そこでイソの読むニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』の「何度でもいい、むごい人生よ、もう一度」を思い出し、「何てことない、問題ないって頑張ってきた、でも本当は1日も楽な日はなかった、父さんが恋しかった、誰かを憎みながら生きること自体がつらかった」と涙を流しながら吐露する。ソンヨルを抱きしめ別れを告げ「恋しさを胸に抱いて生きていくよ」の言葉にソンヨルが返す、「そういうものだセロイ、それが人生なんだ、生きてさえいれば全てが何てことない、本当だ」。自分の細胞に浸透し、この先の人生のお守りとなるような染み入る言葉だ。これが、『梨泰院クラス』が長く、熱狂的に愛される理由のひとつではないだろうか。見返すたびに活力と人生を生きる勇気を与えてくれる名作だ。

■配信情報
Netflixオリジナルシリーズ『梨泰院クラス』
Netflixにて独占配信中
(写真はJTBC公式サイトより)

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