『からかい上手の高木さん』『ゆるキャン△』 劇場版の共通点は“次のステージ”への変化

『高木さん』『ゆるキャン△』共通点は?

 思い返せば学生時代、特に中高生時代というのは特別な時代だった。学校に通いながら多くの生徒たちと交流し、大人でも子どもでもない青春を謳歌する。そして強制的とも言える3年間のタイムリミットが人生の変化を促し、次のステージに行かねばならないと告げてくる。今回は『劇場版 からかい上手の高木さん』と『映画 ゆるキャン△』を通して、思春期からの変化について考えていきたい。

 『劇場版 からかい上手の高木さん』は、山本崇一朗による同名漫画が原作の作品だ。テレビアニメは2018年の第1期放送後より大きな話題となり、2022年に3期目が放送された。中学校の同級生である西片と高木さんが、ちょっとした遊びを通じてからかい合うという、ほんわかした日常描写が人気となっている。

劇場版『からかい上手の高木さん』(c)2022 山本崇一朗・小学館/劇場版からかい上手の高木さん製作委員会

 今作の魅力は原作1話ですでに高木さんが西片への秘めた思いを、読者に提示していることにあるだろう。ともすれば、西片を小馬鹿にしているように見えかねない“からかい”が、高木さんの秘めた恋心を描写することで、2人の関係を深める行為となる。2人のからかいとは、いわば恋愛作品におけるデートなどのイチャイチャした様子を、より柔らかく何度も描写したものであり、読者や視聴者は幼さと関係の変化を恐れるあまりに、恋愛にまでは発展しない可愛らしい行いを、眺めているだけで楽しめる。

 劇場版では、その2人の関係性が発展する。中学3年生の夏休みを迎える西片と高木さん。2人がからかいあえるのも、同じ中学校のクラスメイトというつながりがあるためであり、仮に同じ高校に進学したとしても、関係性はいつか変化するものであり、いつまでもからかいあってはいられない。その少年・少女期の終わりを、少しずつ感じている2人の様子が見どころとなっている。

 その目線で見ると、本作は別れの予感に満ちていることに気付かされる。学校の先生が語る、「卒業アルバムの写真は一生に残る思い出だ」という何気ないセリフすらも、すでに卒業という別れを意識している故の発言だ。

劇場版『からかい上手の高木さん』(c)2022 山本崇一朗・小学館/劇場版からかい上手の高木さん製作委員会

 象徴的なのは舞台となった小豆島の伝統行事である虫送りのシーンだ。2人は蛍を一緒に見ようと約束する。高木さんはクラスメイトから蛍を見た男女は結ばれるという噂話を聞いているのだが、西片は虫送りを手伝うおじさんから、蛍はすでにこの時期にはほとんど見かけないことを告げられる。そして、高木さんは蛍がこの時期にはあまりいないことを知ってもいた。

 これは蛍=恋の成就と捉えると、意味が見出しやすい。2人の恋心は少年・少女期だけのものであり、初恋はいつか過ぎ去るように、この恋も大人になるにつれてなくなるかもしれない。蛍を見つけられない=初恋は成就しないかもしれない。その予感に向き合いながらも、高木さんは西片と過ごす日々を大切なものとして心に刻む。

劇場版『からかい上手の高木さん』(c)2022 山本崇一朗・小学館/劇場版からかい上手の高木さん製作委員会

 そして後半では神社で拾った子猫を2人が育てる話になるのだが、ここも様々な意味が見出せる。子猫の名前をつける際に西片は「子猫はミィと鳴くからミィ」という名前を思いつき、しかし大人になったらニャアと鳴き声が変わるからと却下している。しかし高木さんの名づけ候補もミィという名前だった。

 その理由として「子どもの頃のミィの姿を覚えておきたかったから」と語る。これはまさに、子猫を通して2人の恋のことを語っていると言えるだろう。大人になっても子どもの頃の恋心を忘れたくない、どのように関係性が変化したとしても、今のこの瞬間を覚えていたいという気持ちが反映されている。

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