成田凌と葵わかなW主演で演劇界の“事件”再び 『パンドラの鐘』が21世紀に鳴らす音

成田凌と葵わかなで演劇界の“事件”再び

 成田凌と葵わかなが主演を務める舞台『パンドラの鐘』が、Bunkamura シアターコクーンでの上演を終え、森ノ宮ピロティホールでの上演がスタートする。本作は、1999年に野田秀樹が発表した戯曲を、気鋭の演出家である杉原邦生が演出するというもの。日本の歴史のタブーに挑んだ怪物的な作品が、新世代を代表する才能たちの力により傑作として再誕している。

 『パンドラの鐘』は、1999年にシアターコクーンの芸術監督に就任した故・蜷川幸雄が、野田に執筆を依頼して生まれたもの。これを蜷川はシアターコクーンで、野田は世田谷パブリックシアターにてそれぞれ同時期に上演し、この演劇対決は日本の演劇史における「事件」とされている。蜷川版には大竹しのぶ、勝村政信、生瀬勝久、松重豊らが挑み、野田版には堤真一、天海祐希、古田新太、松尾スズキらが出演。時代を牽引する演劇人の対決となった。蜷川の七回忌を迎えたこの2022年に「NINAGAWA MEMORIAL」と題して上演されている今作は、成田と葵のほか、前田敦子、玉置玲央、大鶴佐助、柄本時生、片岡亀蔵、南果歩、白石加代子ら多彩な顔ぶれによって実現しているところである。

 物語の舞台は太平洋戦争開戦前夜の長崎。ピンカートン財団による古代遺跡の発掘作業が行われているある一帯では、考古学者・カナクギ教授(片岡亀蔵)の助手オズ(大鶴佐助)が、地中深くに埋もれていた数々の遺物を発掘。そしてオズはそれらから、遠く忘れ去られていた古代の王国の姿を想像していく。一方、その古代の王国では王の葬儀が行われていた。狂ってしまった王を幽閉し、まだ14歳の妹のヒメ女(葵わかな)に王位を継がせようというのだ。従者たちはこの一件に関わった葬式屋たちも棺桶とともに埋葬してしまおうとするが、ヒメ女はその中の一人の青年・ミズヲ(成田凌)の型破りな気質に魅かれて命を助ける。それからこの王国は、各国からの略奪品が運び込まれて栄えることに。そんなある日、ミズヲは異国の都市で掘り出した「巨大な鐘」をヒメ女のもとへと持ち帰る。本作の物語はこのように、古代と現代とを往還しながら展開していく。

 杉原版『パンドラの鐘』の上演時間は途中休憩なしの2時間20分。この長いようで短い、短いようで長い時間の中で、二つの世界、二つの物語が入り混じり、遊び心満載ながらも示唆に富んだ言葉が飛び交い、俳優たちは自らの肉体を観客の前にさらしていく。多くの人物が登場するが、特にメインキャストに関してはセリフ量も運動量も相当なものだ。しかも、舞台はほとんど素舞台に近い。開演前から舞台上は袖まで丸見えで、そこに成田演じるミズヲが登場し、床に耳を着けると鐘が鳴り響き、舞台奥と上手下手の三方は紅白幕で覆われる。こうしてあっという間に『パンドラの鐘』の世界が出現するのだが、俳優たちが身を委ねられるようなセットがあるわけではない。俳優の身体に重きを置いた舞台設計である。

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