成田凌と葵わかなW主演で演劇界の“事件”再び 『パンドラの鐘』が21世紀に鳴らす音

成田凌と葵わかなで演劇界の“事件”再び

 そんな作品にて二人三脚で座長を務める成田凌と葵わかな。成田は映画やドラマなどで立て続けに大役を担う存在だが、舞台への出演はこれが初めて。いきなりこんな大作でミズヲという難役を務められるのだろうかと思ったものの、映像のフィールドでみせてきた彼の適応能力の高さはリアルライブ空間でも健在だ。力むところは力み、抜くところは抜いて、力強くも軽やかなミズヲ像を立ち上げている。ときに一人で観客に語りかけ、そしてときには群舞に混ざり、シアターコクーンという巨大な空間で座組を牽引。その瞬発力と柔軟性がなんとも頼もしい座長ぶりである。

 この実現には、葵の力も大きく影響しているように感じる。彼女がストレートプレイに参加するのは今年上演された『冬のライオン』に次いでまだこれが2作目だが、2019年に上演されたミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で初舞台を踏んで以降、継続的に大きな舞台に立ってきた。自由なミズヲの存在によって少しずつヒメ女も変化していくのが物語上の構図だが、若き王を動じずに演じる葵の存在が舞台上にあるからこそ、成田は自在に泳げているように思う。王族の女性らしい気高さと、14歳の少女らしいイノセントさの調和の取れたヒメ女像を作り上げている。

 成田と葵の脇を固めるのは、先に挙げた手練れの面々だ。昨夏上演されたNODA・MAP作品『フェイクスピア』に出演した前田敦子&白石加代子コンビがいるのも心強い。野田の脚本の特徴の一つといえば、やはり奔放な言葉遊び。これを野田の演出では激しい運動とともにスピーディーかつリズミカルに刻みつけていくが、杉原の演出ではとても丁寧に扱っている印象。ただ音の響きを重視した遊びでしかないセリフも多いのだが、演出によって扱い方が変われば、それぞれの言葉が本来持っているものとは別の意味性をも帯びてくる。大量の言葉が異常なまでの速さで消費される現代。本作ではそれらを噛み締めるように発し、より観客の思考を促す。前田と南果歩の異様なテンション、玉置玲央の冷静な振舞い、演劇人のDNAを受け継ぐ大鶴佐助と柄本時生が感じさせるある種の余裕、地に足のついた片岡亀蔵の重みが有機的に絡み合い、白石加代子が締め上げる。『パンドラの鐘』再誕に相応しい布陣だ。もちろん、劇団ロロの亀島一徳や、野田が率いる東京演劇道場の森田真和、優れた身体性を持ったアンサンブルキャストたちの存在があってこそ成り立つ作品である。


 本作について、“日本の歴史のタブーに挑んだ”、“舞台は太平洋戦争開戦前夜の長崎”などと先述したが、この二つのセンテンスを目にしただけでも、何をモチーフにした作品なのか多くの方が思い当たることだろう。この物語が古代と現代とを往還しながら現代社会で改めて訴えるのは、「責任の所在」や「歴史修正主義」など、古くから連綿と続いている問題だ。蜷川と野田が上演した1999年といえば、20世紀の末のこと。あれから23年。あの年に鳴った鐘は、いまなお鳴り続けている。ダブル主演の二人がまだ20代ということもあり、フレッシュで生き生きとした作品に仕上がっているが、やはりこれを“警鐘”として重く受け止めたい。未来に語り継ぐべき作品である。

■公演情報
『パンドラの鐘』
6月6日(月)〜6月28日(火)
会場:東京・シアターコクーン 
7月2日(土)〜7月5日(火)
会場:大阪・森ノ宮ピロティホール
作:野田秀樹
演出:杉原邦生
出演:成田凌、葵わかな、前田敦子、玉置玲央、大鶴佐助、森田真和、亀島一徳、山口航太、武居卓、内海正考、王下貴司、久保田舞、倉本奎哉、米田沙織、涌田悠、柄本時生、片岡亀蔵、南果歩、白石加代子

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