MCUにピクサー、ホラーやコメディまで ハリウッドで台頭する若手女性監督たち

ハリウッドで台頭する若手女性監督たち

 社会全体で男女平等を実現しようという動きが加速するなか、映画業界では長年、男女の賃金格差や機会の不平等などが指摘されてきた。しかし2020年ごろから、女性監督が躍進をつづけている。

 2021年にはクロエ・ジャオが『ノマドランド』でアカデミー賞作品賞と監督賞を受賞。また以前から世界的に高い評価を受けてきたベテラン、ジェーン・カンピオンも、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021年)でヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を獲得するなど、衰えない力量を見せつけた。そんな彼女たちにつづくように若手監督も活躍しており、その作品はヒューマンドラマからヒーロー映画、ホラー、コメディなど、ジャンルも多岐にわたり、ビッグバジェットのプロジェクトを任されることも増えている。“女性監督ならでは”といった枠に留まらない活躍には目を見張るばかりだ。今回は、そんな注目の若手女性監督たちを何人か紹介していこう。

ニア・ダコスタは『ザ・マーベルズ』でMCU最年少監督に

 2023年に公開予定のマーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)作品『ザ・マーベルズ(原題)』は、MCU初の女性ヒーローの単独映画となった『キャプテン・マーベル』の続編として注目度が高い作品だ。その監督に抜擢されたのは、これが長編3作目となるニア・ダコスタ。1989年生まれ、32歳の彼女は、ニューヨーク大学ティッシュ芸術部を卒業し、2018年の長編デビュー作『ヘヴィ・ドライヴ』もトライベッカ映画祭でノーラ・エフロン賞を受賞するなど、キャリアの早い段階から高い評価を受けていた。

 彼女の監督2作目となった『キャンディマン』(2021年)は、ジョーダン・ピールが製作総指揮を務めたホラー映画だ。シカゴの公営住宅を舞台に、「鏡に向かってその名を5回唱えると、殺人鬼が現れて殺される」という都市伝説の謎を追うビジュアルアーティストのアンソニー(ヤーヤ・アブドゥル・マティーン2世)は、やがてその裏に隠された悲惨な歴史を知っていく。1992年の同名映画のリメイクである本作だが、ストーリーは続編的な内容になっており、前作より深く黒人差別の歴史とその継承が描かれている。2021年8月に全米で公開されると、オープニング週末興収2,230万ドル(約24.5億円)を記録し、アフリカ系女性監督として初めて全米週末興行成績ランキング1位を獲得した。

 昨今アメコミヒーロー映画の人気は顕著だが、特に女性ヒーローを主人公とした作品を女性監督が手掛ける例が増えてきている。2017年にはDCコミック原作の『ワンダーウーマン』でパティ・ジェンキンスが女性監督として初めてヒーロー映画のメガホンを取った。その後『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(2020年)でキャシー・ヤンがアジア系女性として初めてヒーロー映画の監督を務め、先述したクロエ・ジャオもMCUの『エターナルズ』(2021年)を手掛けている。

 そして今回、ニア・ダコスタもMCUという巨大フランチャイズの一員となり期待を一身に背負うことになった。また彼女は、これまでのMCUで最年少の監督となることでも注目されている。『ザ・マーベルズ』では、キャプテン・マーベルことキャロル・ダンバース(ブリー・ラーソン)をはじめ、6月にディズニープラスのオリジナルドラマでデビューしたばかりのミズ・マーベル/カマラ・カーン(イマン・ヴェラーニ)、ドラマ『ワンダヴィジョン』(2020年)に登場したテヨナ・パリス演じるモニカ・ランボーの3人が、ヒーローとして活躍するという。ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)やワンダ(エリザベス・オルセン)が去り、現状MCUにはメインとなる女性ヒーローはキャプテン・マーベルしかいない。3人の女性ヒーローは、女性監督の手によってどのように描かれるのか。そしてMCU世界でどんなポジションになっていくのかにも期待したい。

ピクサーではオスカー短編アニメーション賞受賞監督が長編デビュー

 今年3月にディズニープラスで配信されたピクサーの『私ときどきレッサーパンダ』も、女性監督の作品として話題になり、高い評価を獲得した。メガホンを取ったのは、2018年に『Bao』でアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞したドミー・シーだ。1989年、中国の重慶市で生まれた彼女は、2歳のときにカナダに移住。幼い頃からスタジオジブリやディズニーの作品に親しみ、10代ではセーラームーンやポケモンなどの日本のアニメや、ハリー・ポッターなどのファンアートを描くようになった。その後、彼女はトロントのシェリダン・カレッジでアニメーションを学び、2011年にインターンとしてピクサーに入る。

 『私ときどきレッサーパンダ』は、日本のアニメ的な表現を多く取り入れている。キャラクターのコミカルでデフォルメされた表情や動きは、これまでのピクサー作品とは全く違う。そしてそれが、思春期の女の子の成長物語にぴったりとマッチしている。また主人公メイのバックグラウンドは、ドミー・シー自身のそれと重なる部分が多い。中国系カナダ人の13歳の女の子。祖国の伝統を重んじる両親の期待にも応えたいが、西洋的な楽しいことにも興味津々だ。メイは移民としての葛藤と思春期には避けて通れない親への反発を感じながら、親友たちとの関係を通して“ありのままの自分”を受け入れていく。本作は監督だけでなく各部門のリーダーも全員女性で、自由でのびのびした雰囲気で製作が進められたと、本作のメイキングに迫るドキュメンタリー『レッサーパンダを抱きしめて』で語られている。圧倒的に男性が多い環境で働いてきた彼女たちが、なんの気兼ねもなくその才能を発揮して、傑作『私ときどきレッサーパンダ』を作り出したのだ。そしてその作品が正当な評価を受け、絶賛とともに受け入れられたことは非常に喜ばしい。

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