『ちむどんどん』原田美枝子の優しい眼差しが美しい 暢子が噛み締めた“基本が一番大事”
『ちむどんどん』(NHK総合)の第45話では、暢子(黒島結菜)が「アッラ・フォンターナ」に戻ってくる。……というのは、1週間前に執筆した第40話の記事とほぼ同じ書き出し。東洋新聞での雑用のアルバイト、そしてヨシ(大島蓉子)が営むおでん屋の経営立て直しという2度のミッションをクリアし、暢子は今度こそ(という希望を込めて)オーナーであり大叔母でもある房子(原田美枝子)が認めるシェフとして、フォンターナに帰ってくるのだ。
ウェイターとして、とてもではないがホールに出すことのできない世間知らずだった暢子が、東洋新聞でのアルバイトから身につけたのは社会人マナーという接客の基本、そして料理人に必要な幅広い知識と視野だった。
だが、そんな暢子の勉強熱心が仇となり、彼女の作る料理の味は明後日の方向へ。良いように捉えればそれは今まで食べたことのない新しい料理、新しい試みではあるが、フォンターナの常連客にとっては馴染みの料理の味が変わったという残念な感想でしかなかった。
暢子がヨシのおでん屋に出向いてからも、その姿勢は一貫していた。家庭料理のおでんは、イタリア風のおでんに変化。一見さんは物珍しさに喜んでも、リピートしたいと思う味ではなかった。おでん屋の立て直しに苦戦する暢子にとってヒントとなるのは、和彦(宮沢氷魚)や二ツ橋(高嶋政伸)、三郎(片岡鶴太郎)からの厳しくも温かなアドバイス。「迷子になった時は一回入り口に戻る。それが人生の基本だ」ーーという三郎の言葉、さらに賢秀(竜星涼)との思い出話もあり、暢子の脳裏に蘇ったのは、幼き頃に賢三(大森南朋)から教わった「焦らず、じっくり、丁寧に。基本の出汁は当たり前で地味だけどそれが一番大事」という足てびちの作り方だった。
暢子は房子も舌鼓を打つ、名物おでんを作り上げる。それが足てびちをタネとしたおでん。単体としてのおいしさはもちろん、出汁の味付けにも深みが出るという抜群の相性の良さだ。暢子は、変わった味付けや材料にこだわり過ぎていた自身の振る舞いを顧みながら、「イタリア料理も、おでんも基本が一番大事」というある種の境地に辿り着く。その基本を尊重しながら、様々なシチュエーションに対応していくのが一流の料理人であり、それぞれのフィールドで活躍するプロフェッショナルである。
不器用ながらも一歩ずつ料理人として成長していく暢子。そんな彼女を見つめる房子の眼差しは優しい。オーナーであり大叔母としての裏腹な愛情、ちょうど同じ年恰好だったという生き別れた妹を重ねての思いも、少なからずはあるだろう。第9週スタートの1974年(昭和49年)11月は暢子がフォンターナに勤めて3年目というタイミングだったが、第10週は1976年(昭和51年)秋。暢子が勤めて4年ほどが過ぎた頃となる。
タイトルは「あの日、イカスミジューシー」。フィーチャーされるのは、「店を辞めるかも」と言い出す料理長の二ツ橋だ。
■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK