『ちむどんどん』長野里美のほか、長谷川博己、松下洸平も 朝ドラには演劇人が欠かせない
朝ドラには経験豊富な演劇人の存在が欠かせない。
放送中の『ちむどんどん』(NHK総合)は、黒島結菜扮するヒロイン・暢子が故郷の沖縄を離れて単身東京へ。そんな彼女をサポートする存在として現れたのが多江だ。大都会にやってきて途方に暮れていた暢子に優しく語りかける姿が印象的で、いまのところ出番は多くはないものの、登場すればドラマ全体に柔らかさをもたらしている。演じるのは長野里美。かつて“小劇場の女王”と称された、演劇人の技を感じるというものである。
長野といえば、鴻上尚史が主宰し、2012年に解散した劇団「第三舞台」の看板俳優であった存在だ。世代的に知らない方のために記しておくと「第三舞台」とは、80年代に巻き起こった“小劇場ブーム”の中心的な存在で、筧利夫に勝村政信、池田成志、『淵に立つ』(2016年)や『よこがお』(2019年)などに出演の筒井真理子らが在籍していた劇団。現在、バイプレイヤーとして名高い彼らのルーツとなっている(1990年生まれの筆者は悔しくもその全盛期をリアルタイムで目の当たりにすることができなかったため、各作品の映像を見ては当時の観客の熱狂ぶりを追体験し心酔したものである)。そしてそれらの多くの作品で圧倒的な輝きを放ち、話芸にしろ身のこなしにしろ、たとえ収録された映像の中であっても非常に高い技量を感じさせたのが、看板俳優の長野だった。
彼女は「第三舞台」時代の舞台俳優としてのインパクトが強いものの、『あなたの番です』(2019年/日本テレビ系)への出演や映画『君の膵臓をたべたい』(2017年)でヒロインの母親役を務めるなど、手堅い演じ手としてさまざまな映像作品を支えている。特に朝ドラは視聴者の層が幅広く、どの層にも伝わる“分かりやすさ”に演技の重点が置かれているように思う。そこで今作『ちむどんどん』ではヒロインの頼れる存在を、演じるキャラクターとしてもいち俳優としても、長野が担っているわけだ。やはり朝ドラには、彼女のような演劇人の存在が欠かせない。
近年の朝ドラ出演者を振り返ってみると、演劇フィールドに軸足を置くプレイヤーが数多く参加しているのが分かる。暢子が将来の夢を見つけるきっかけとなった高校の料理部の顧問を演じていたのは、今年の頭まで「ハイバイ」に所属していた平原テツだ。主張の少ない役どころではあったが、物語が円滑に運んでいくよう黒島たち若手俳優をアシストしていた。それからこの料理部というと、暢子の後輩の宮城珠子役として井上向日葵がいた。料理大会でスープをこぼした、あのメガネの少女である。彼女は映像作品への出演はまだ少ないようだが、杉原邦生ら気鋭の演出家の作品に多数出演。特に、杉原が演出を手がけた「さいたまゴールド・シアター」の最終公演『水の駅』(2021年)には70代から90代の俳優たちの中に唯一の若手として交じり、異彩を放った。今後、目にする機会の増える俳優なのではないかと思う。