『鎌倉殿の13人』研ぎ澄まされていく三谷幸喜の脚本 伏線にとどまらない“過程”の秀逸さ

『鎌倉殿』研ぎ澄まされていく三谷脚本

 そのことに、多くの人が本格的に気づき始めたのは、その脚本の巧みさに、ほとほと舌を巻くようになったのは、思えば第15回「足固めの儀式」の頃だったかもしれない。頼朝が集めた勢力の中で、最大の実力者であった上総広常(佐藤浩市)の身に、突如降りかかってきた「死」。『愚管抄』などの記述では、「謀叛の疑いありとして、双六をしている最中、梶原景時によって誅殺された」としか「記録」されていない広常の「人物像」と、その最期に至るまでの「過程」を、ここまで細やかに、なおかつ魅力的に描き出した「物語」が、果たしてこれまであっただろうか。

 それだけに、視聴者のショックも大きかった。それは、第16回「伝説の幕開け」で、従来のイメージとは異なり、最後まで「共に平家を倒そう」という夢を抱きながら、無情にも従兄弟である頼朝の軍勢に討たれた木曽義仲も同じだった。さらには、そんな父・義仲を信じて鎌倉に人質として送られながら、第17回「助命と宿命」において、「私は鎌倉殿を許さない」と言い放ち、その命を毅然と散らしていった源義高/冠者殿(市川染五郎)も。

 放送開始前の2021年12月、公式サイトの特集インタビューの第1弾としてアップされた記事の中で、脚本家・三谷幸喜は、こんなふうに語っていた。

大河ドラマは歴史劇だから歴史を描くことはもちろんですが、大河ドラマはまず“ドラマ”であるべきというのが、僕の考え。エンターテインメントとして満足できるものをつくりたい。(『鎌倉殿の13人』公式サイトより ※)

 その言葉が、今改めて力強い説得力をもって響いてくる。義経も含む上記の登場人物たちは、いずれも不条理な形でその「命」を奪われながら、実に毅然とした態度で、それぞれの「運命」を受け入れ、そこに数々の「ドラマ」を描き出してきたのだから。

 さらに、これもまた、歴史書には書かれていないことだけれど、彼らの「死」は、その周辺にいた人物たちの心の中にも、きっと大きな「何か」を刻み付けているのだろう。それは、「恐怖」なのか「怒り」なのか、はたまた「教訓」なのか。とりわけ、その「決断」の多くを間近に見てきた本作の主人公・北条義時(小栗旬)は、彼/彼女たちの「死」から、一体何を感じ取っているのだろうか。そして今後、彼は一体どのような人物に仕上がっていくのだろうか。

 その前に、これら多くの「死」を命じてきた、頼朝自身の「死」が訪れる。果たして彼は、どのような形で、自らの生涯を閉じていくのだろうか。そして、それを目の当たりにしたとき、我々視聴者は、そこで一体何を思うのだろうか。義経の最期のように、当初思いもよらなかった複雑な感情を、そこに抱いてしまうのだろうか。物語はまだまだ中盤戦に差し掛かったところ。錯綜するさまざまな「思い」を、登場人物たちの心に、そして視聴者たちの胸に刻み付けながら、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、まだまだドラマチックに進んでいく。

参照

※ https://www.nhk.or.jp/kamakura13/special/interview/001.html

■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK

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