映画『五等分の花嫁』魅力的な五つ子を演じきった声優の実力 風太郎の決断にエールを送る

 『五等分の花嫁』は、勉強一筋で友達もいない高校生・上杉風太郎が、借金返済のために家庭教師のアルバイトを引き受けるところから始まる。しかし、その相手は同級生の五つ子姉妹で、成績は壊滅的。風太郎を見下し、五つ子の絆に立ち入る隙を見せない5人だったが、全員一緒に卒業したいという思いで渋々風太郎を受け入れ、風太郎との日々に次第に心を開いていく。テレビシリーズでは、花火大会、林間学校、修学旅行などいくつものイベントを通して、5人の恋の駆け引きが描かれた。

 顔はそっくりだが性格は全くバラバラ。『五等分の花嫁』の五つ子姉妹には、およそ考え得るだけの女の子のタイプが集約されている。もしも自分ならどの子を選ぶだろうか? 自分を風太郎に置き換えて想像するのが、同作のもっともポピュラーな楽しみ方だ。

 例えば長女・一花は、大人のお姉さん風。他の姉妹に変装したり、大人の魅力で風太郎を惑わせる。最初は姉妹へのライバル心や「ちょっとからかってやろう」といった軽い気持ちだったが、女優という夢に背中を押してくれた風太郎の優しさと真剣さに、いつしか本気モード。花火大会や林間学校など、シリーズを通してドキドキの展開でファンをヤキモキさせた。演じるのは花澤香菜。彼女の持つ大人可愛い声の魅力も相まって、自分の夢と恋、姉妹への思いの中で揺れる心情を見事に演じている。

 竹達彩奈が演じる次女・二乃は、絵に描いたようなツンデレの女の子。わがままなお嬢様タイプだが、実は料理やお菓子作りが得意という家庭的な一面も持ち、風太郎がバイトをするケーキ屋でパティシエとして採用されるほど。最初はとにかく風太郎を毛嫌いしていたが、ひと目惚れした金太郎と風太郎が同一人物だと知ってからは、風太郎への思いをストレートに伝えようとする。あの真っ直ぐさにキュンとしたファンもおおいだろう。ツンとデレの絶妙な加減、自分に自信たっぷりの女の子像の演技は、竹達の真骨頂だ。

 五つ子の中で、最初に風太郎に心を開いたのが、三女・三玖。地味でおとなしく歴史好きな、趣味に没頭するタイプ。もしかしたら三玖ファンという視聴者が、もっとも多いかもしれない。二乃とは逆に料理下手で、抹茶ソーダ好きと、味覚も特殊。粘り強い性格で、風太郎に手作りパンを食べさせたい一心で、パン屋でバイトをしながらパン作りの才能を覚醒させる。ぼそぼそとしゃべる演技は、伊藤美来にとってあまり演じたことのない役柄。感情があまり表情に出ない三玖を、生き生きとまるで自分自身のように演じた。

 頼まれたら断れない性格で、スポーツ万能なことから様々な部活に助っ人を頼まれてしまう、四女・四葉。クラスに必ず1人はいそうな、みんなが憧れる人気者タイプ。他の姉妹と同様に風太郎に好意を抱いているが、自分のせいで姉妹も転校することになったことに責任を感じていて、「自分にはその権利がない」とテレビシリーズでは終始姉妹のバックアップに回って自分の本心を明かせずにいた。演じる佐倉綾音は、四葉の元気で明るいキャラクターの裏で、誰にも言えない真実を隠しながら切ない思いを滲ませるという、難しい演技を好演して四葉をリアルに輝かせた。

 そして、いわゆる優等生タイプなのが、水瀬いのり演じる五女・五月(いつき)。学校で風太郎と最初に出会うのが五月で、その時は誰もがメインヒロイン確定と思ったが、こうも気持ちが交錯するとは誰も予想できなかっただろう。水瀬の凜としてまっすぐな声と演技で、まじめで正論を振りかざす五月を好演。勉強はできないが非常にまじめで、亡き母親が教師であったことから母親のようになりたいと奮闘する五月は、塾でバイトをしたり文化祭の日まで勉強をするほど。食に対して貪欲で、風太郎の妹・らいはが作るカレーを何杯もおかわりしてしまい、風太郎に睨まれることも。姉妹としての調和を保とうとするが、自分も風太郎に惹かれていたことに次第に気づいていく。

 映画『五等分の花嫁』は、風太郎が五つ子姉妹の中から一体誰を選ぶのかが最大の見どころとなる。大人数アイドルグループならば、選びきれず“箱推し”ということもあるだろう。風太郎の性格なら“誰も選ばない”という選択肢もあるかもしれない。しかしテレビシリーズ1期2期を通して、さんざん周りに気を使って傷つけ合ってきた五つ子を見てきた風太郎と視聴者としては、“選ぶこと”こそが全員の幸せに繋がることを知っている。箱推し厳禁という追い詰められた状況で、風太郎は一体どの色を選ぶのか。原作を未読の方は、予想を立ててから映画を観るのがオススメだ。

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