大森南朋、『ちむどんどん』で見せた柔らかさ 賢三は近年の朝ドラの系譜を継いだ父親に?
4月11日からついに始まったNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』。沖縄本土復帰50年の節目に合わせて放送される本作は、自然豊かなやんばる地域を舞台に、黒島結菜演じるヒロイン・比嘉暢子とその家族の物語を描く。
4人兄妹の次女である暢子は食べることが大好きで、のちに料理人を目指して上京することに。そんな彼女の幼少期に大きな影響を与えるのが、父親の賢三(大森南朋)だ。大森南朋は数多くのドラマや映画で唯一無二の存在感を放ち続ける名俳優の一人だが、意外にも朝ドラに出演するのは今回が初となった。
『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)では、仕事に奮闘するヒロインを完璧な家事と包容力で支えるスーパー家政夫のナギサさんを演じ、現在まで続く“おじさんブーム”の火付け役となった大森。そのほか、1000グラムにも満たない小さな命と日々向き合う新生児科の部長を演じたドラマ『コウノドリ』(TBS系)や、『ちむどんどん』で幼少期の暢子を演じる稲垣来泉と最初に親子役で共演した映画『そして、バトンは渡された』など、近年は見る人に安心感を与える優しい微笑みが印象深い。
一方で、バイオレンスの巨匠・三池崇史監督の『殺し屋1』にはじまり、日本アカデミー賞で優秀主演男優賞を獲得した『ハゲタカ』(ドラマはNHK総合)、念願叶って裏社会の権力争いを描く『アウトレイジ』シリーズの最終章に出演するなど、ハードボイルドなイメージも強い大森はどこか朝ドラとは相容れない部分があったのかもしれない。しかし、2作前の『おかえりモネ』で浅野忠信が東日本大震災で愛する妻を失い、息子と2人遺された父親が再び歩き出すまでの過程を凄まじい演技で見せたことが記憶に新しく、同じように実績と経験を積み上げてきた大森の名演にも期待が高まる。
そんな大森が演じる賢三は、比嘉家の子供たちにとってどんな父親なのか。歴代の朝ドラでは、大泉洋演じる一攫千金を狙っては失敗を繰り返す徹(『まれ』)や、北村一輝が演じた呑んだくれで気が短い常治(『スカーレット』)、身勝手な振る舞いで生涯に渡って娘の人生をかき乱し、「朝ドラ史上最低の父親」とまで言われたトータス松本演じるテルヲ(『おちょやん』)など、親としてはどこか欠けているところもありながら、家族への愛情が稀に垣間見えて憎みきれない父親たちがいた。
しかし、ちょっと頼りなくも音楽の道を志す息子の背中を押し続けた唐沢寿明演じる三郎(『エール』)、家族思いでヒロインが暮らす島の人からも絶大な信頼を寄せられていた内野聖陽演じる耕治(『おかえりモネ』)、頑固者ではあるが、子どもたちの幸せを誰よりも願っていた甲本雅裕演じる金太や、世間一般でいう“ヒモ状態”ではありながら穏やかで家族の精神的支柱だったオダギリジョー演じる錠一郎(『カムカムエヴリバディ』)のように、ここ数年は視聴者から愛される父親が多く、賢三もその傾向を引き継いでいると言えるだろう。