中絶をめぐる論争から鳥たちの求愛ダンスまで Netflixの隠れた良作ドキュメンタリー4選

Netflixの隠れた良作ドキュメンタリー

 本年の第94回アカデミー賞において、配給会社として最多の10作品、27部門のノミネートを果たしたNetflix。受賞は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の監督賞のみではあったが、その作品群は昨年に続き圧倒的な存在感を示した。Netflixの作品がアカデミー賞を大きく賑わしはじめたのはここ数年のことだが、初のノミネートと受賞が共にドキュメンタリー作品であることはあまり知られていない。初のノミネート作品は日本では未配信の『The Square(原題)』(2013年)、そして記念すべき初受賞を果たしたのは短編作品『ホワイト・ヘルメット ーシリアの民間防衛隊ー』(2016年)だ。

 このことからも、Netflixが過去からドキュメンタリーというジャンルに相当な力の入れ込みようだったことが分かるが、同社にはオリジナルコンテンツがあまりにも多すぎるが故に正当な注目を浴びることなく埋もれていった数々の名作ドキュメンタリーが存在する。今回はそんな数々の名作の中から厳選した珠玉の4作品を紹介していこう。

『バタード・バスタード・ベースボール』(2014年)

 『バタード・バスタード・ベースボール』は俳優ビング・ラッセルが1973年に設立した野球チーム「マーヴェリックス」の軌跡を辿るドキュメンタリーだ。オレゴン州ポートランドではかつてメジャー傘下のマイナー球団「ビーバーズ」が拠点を構えていたが、集客が弱く経営難のためチームは1972年にワシントン州へ移転した。その後他の球団が参入してくる予定もなかった野球に見捨てられた街で、突如として誕生したのが当時米国で唯一の独立球団マーヴェリックスだった。メジャーと契約をしていないマーヴェリックスの元に集ったのは、他の球団に見捨てられた選手や、野球に情熱を注ぎながらもプロ球団からは拒絶され挫折を味わった選手たち。年老いていて見た目もだらしない選手たちは当初、野球界だけでなくポートランドの住民からも笑い物にされていたが初戦でまさかの快勝。その後も連勝し圧倒的な強さを見せ、やがて街に熱狂の嵐を巻き起こしていく...…というまさにアメリカン・ドリームを絵に描いたような作品である。

 野球界から拒絶されたはぐれ者たちが直向きな野球愛を武器に大活躍していく姿は王道スポーツ漫画的なアツさを帯びており、注目を集めにくいマイナーリーグにもかかわらず地元民から熱烈に愛されたのも頷ける。このマーヴェリクスは惜しまれつつも1977年に解散するわけだが、その経緯も非常にドラマチックで、名作映画のような完璧な着地点に思わず笑みが溢れてしまう。筆者は野球に全く明るくないが、そんなド素人すらも夢中で楽しませてくれる本作の娯楽性はNetflixのドキュメンタリー作品の中でも随一だろう。ちなみに本作の主人公であるビング・ラッセルは俳優カート・ラッセルの父親で、カートも球団設立の重要人物として度々インタビューにも登場するのでファンの方は必見だ。

『ダンシング・ウィズ・バード 驚きの求愛ダンス』(2019年)

『ダンシング・ウィズ・バード 驚きの求愛ダンス』Netflixにて独占配信中

 Netflixの注力コンテンツである動物の生態系に迫るドキュメンタリーの中でも特にお薦めしたいのが本作『ダンシング・ウィズ・バード』。番いを求めて雄鳥たちが様々な求愛行動をするさまを映す、ただそれだけの作品なのだが、それが世にも不思議で面白い。様々な姿をした鳥たちが披露してくれるのは、小粋なポールダンスや2人組によるコンビネーション、そして9部にも及ぶ壮大な愛のミュージカル等々。彼らの堂々たる演目の数々は愛らしく可笑しくてたっぷり笑わせてくれると同時に、普段中々触れることのない鳥たちの世界の奥深さを教えてくれる。

 ユーモア溢れる語り口で本作の解説をしてくれるのは、映画『ホビット』シリーズなどでも知られる俳優スティーヴン・フライだ。彼の魅力的で調子の良いナレーションと、鳥たちのステップを彩る軽やかな音楽がただでさえ面白い鳥たちのラブロマンスを一層盛り上げてくれる。51分という手軽に観られる短いランニングタイムも魅力だが、本作を観終わる頃にはもっとこの魅力的な世界に浸っていたいと思うはずだ。

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