『カムカム』怒涛の伏線回収と新たに生まれた“おはぎ”の謎 巡り巡る彼らの物語が胸を打つ
1925年から、この岡山の地で始まった物語を私たちは見守ってきた。途中、岡山を離れ、大阪に京都と違う街での暮らし、新たな登場人物の日々を追ってきたが、ついに1994年、岡山に戻ってきた。そして「安子編」に登場していた数々の行方の知れなかったキャラクターの今、彼らの心境にようやく触れることができる。まるで、本当の人生のように。あの時の誰かの気持ち、あの人の今、そういうものはその瞬間ではなく、時が経ってからこそわかったり向き合えたりすることが多い。るい(深津絵里)がようやく雉真に戻ってこられたように、ようやく雪衣が当時のことをるいに話せたように、ようやく勇(目黒祐樹)がるいと再会し笑って泣けたように。
雪衣(多岐川裕美)は帰ってきたるいを大層もてなそうとする。彼女自身が、幼いるいに言った「女手ひとつでるいちゃんを育てることを諦めて、雉真の家にお返ししようと決めたんじゃと思います」という言葉を覚えているのかはわからないが、振る舞いから罪悪感があったことは窺える。そして、彼女があれから今までずっと橘の墓を守ってきたことが明かされた。家を出て行った、ほぼ血縁関係を解消したような相手、ましてや勇が愛したかつての恋敵の先祖の墓を手入れし続けることは容易くない。そこには雪衣の安子(上白石萌音)に対しての贖罪の念が垣間見える。
「安子編」が終わっても、「安子編」に出ていた登場人物の人生は続いていたのだ。そう思わせてくれるように、年を重ねた姿はもちろん、話すだけですぐに「ああ、雪衣さんだ。でも丸くなあったなあ」「勇ちゃんは相変わらずだなあ」と感じさせる目黒と多岐川の手腕にも拍手を送りたい。
巡り巡った季節と、彼らの物語。桃太郎(青木柚)の失恋話をキャッチボールをしながら、共感し聞いてあげられるのは勇しかいない。
「桃太郎、女を好きになった時は甲子園に出れたら、あれができたらこれができたら言うて、先延ばしにするんじゃねえ。ぜってい報われんぞ、うん」
よく、歳上の人からアドバイスを受けた時「この人もそういう経験が?」と思うことはあるが、勇と安子の関係を目の当たりにしてきた視聴者が、「勇が安子との報われない初恋の話をしている」とすぐに頷ける演出はニクい。これが普通のドラマであれば桃太郎のように「へえ」くらいにしか思わなかったかもしれない。ひなた(川栄李奈)にとっても、会ったことのないおばあちゃんの話は遠くに感じるに違いない。そういうものだ。しかし、ここに三世代ヒロインの物語を描いてきた『カムカム』の真価が発揮されてきたように思う。
るいが自分の部屋に佇んで、安子から貰った(そして安子が松村北斗演じる稔から貰った)英語の教科書を手に取るシーンもそうだ。初週から『カムカムエヴリバディ』を観てきた視聴者は、もはやどの昔話にも、どの懐かしい代物にも胸を打ってしまうほど、彼らの人生に寄り添ってきたのである。