Netflixが詐欺行為へ注意喚起? 深堀りせずにはいられない実録ドラマ『令嬢アンナの真実』

Netflixが詐欺行為へ注意喚起?

 Netflixのドラマ『令嬢アンナの真実』が話題だ。ロシア出身のアンナ・ソロキン(当時26歳)が、立場を偽り、ハッタリをかまし、ニューヨークで金持ちや銀行を相手に詐欺をしたストーリーだ。とてもセンセーショナルな内容だが、驚くなかれ、実話がもとになっている。

 26歳という若さで海千山千のニューヨーカーを騙したこと、詐欺のダイナミックさ、もしも銀行からの融資が成立していれば詐欺師ではなく優秀なビジネスマンとして名を馳せたであろうことなど、フィクションのような展開で舌を巻く。観終わったあとは事件を深堀りせずにはいられなくなるし、持論を述べたくなる。

 ということで、今回はNetflixドラマ『令嬢アンナの真実』とNetflixで増えている詐欺コンテンツについて語っていこう。

華麗で未熟な詐欺の手口

 『令嬢アンナの真実』は、ジャーナリストのヴィヴィアン・ケントが若き詐欺師の犯罪を記事化するためにインタビューや調査を重ねながら、詐欺のスキームを紐解く内容となっている。

 アンナ・デルヴィが人を騙す手口は見事だ。アメリカでは利用料金の10〜15%、美容関係のチップだと15〜20%のチップを支払うのが一般的だ。しかし、アンナはどんなサービスにも100ドルのチップを渡す。その気前の良さに、人々は驚き、彼女が金持ちであると想像する。そして、大富豪の娘だという嘘をすんなりと信じてしまうのだ。

 ニューヨークの社交界では、誰もが金を持っている。そのため、彼女の言葉を疑う人は少ない。アンナは最小限の出費とアートの知識と洗練されたファッションセンスで、自分を大富豪のドイツ人にみせることに成功した。そして、マンハッタンの一等地に会員制アートクラブを創設しようと考え、約25億円の資金調達を目論んだのだ。

 しかし、資金調達も後一歩というところで、Vanity Fair誌の元フォトエディターであるレイチェル・ウィリアムと共にマラケシュの高級リゾートに出かけたことをきっかけに、事態は一転し、詐欺行為が暴かれていく。

「完全なでっちあげ」の部分が多い

 『令嬢アンナの真実』の冒頭には、「この物語は真実である。完全なでっちあげ部分は除いて」という注意書きが出る。この「完全なでっちあげ部分」というのは、アンナが大富豪の相続人であるという嘘だけにとどまらない。

 アンナ・ソロキンがアンナ・デルヴィを名乗り、ニューヨークの社交界に出入りして詐欺を働いたことも、ジャーナリストが取材して特集記事を出したのも事実だ。Vanity Fairの元フォトエディター、ホテルのコンシェルジュ、ライフコーチとの交友関係も事実に基づいている。プライベートジェットを盗んだり、マラケシュ旅行で悪夢を経験したりといったことも実際にあった。

 しかし、TEDトークの恋人はロマンスを絡めるための演出だし、マラケシュ旅行の支払いである約700万円を全て背負わされたレイチェルのキャラクター設定も事実とは異なる。そしてなにより、現実のアンナ・ソロキンは、ジュリア・ガーナー演じるアンナより人間味が感じられず恐ろしい。

 本物のアンナ・ソロキンが話している姿は、オーストラリアのテレビ番組『60 minutes Australia』の「How con-artist Anna Sorokin ripped off the New York elite and became a star | 60 Minutes Australia」(2021年)で見ることができる。『令嬢アンナの真実』と併せて見ておくといいだろう。

How con-artist Anna Sorokin ripped off the New York elite and became a star | 60 Minutes Australia

 アンナはお世辞にも人柄がいいとは言えない。何を聞かれても表情を変えず、質問に質問で返しながら相手をケムに巻こうとする。たとえば、「騙した人に対して悪いと思っているのか」という質問に対しては、「具体的な名前を出してくれたら誰にどんな感情を抱いているのか話してあげる」と言う。インタビュアーが「詐欺」という言葉を使えば、「自分は詐欺をしていない」と反論する。詐欺罪が認められて刑務所に入ったことを持ち出されても、認めようとせずに、刑務所に入ったことすら犯罪を犯したからではなく、計画を進める上でミスを犯したからだと解釈している、と言う。

 インタビュアーの質問に答えるときは、表情を変えずに常に上から目線だ。そして、鼻で笑ったり、無意味に長く乾いた笑いをしたりする。インタビューの冒頭で、アンナは「人の馬鹿さ加減には我慢ならない」と言っているため、そのような行動がインタビュアーを馬鹿にしていることからきているのだろうと推測される。

 元友人であるレイチェルの話題になったときは、レイチェルだけでなく、彼女が勤めていた大手ファッション雑誌のVanity FairをもFワードをつかって愚弄した。「人が自分をどう思うかなど気にしない」と明言しているだけあって、言葉に配慮は感じられない。

 瞬きの回数が極端に少なく、感情が読み取れない彼女を見て、言い知れない恐怖を感じるのは筆者だけではないだろう。ドラマの中のアンナの方が、はるかに善人で人間らしい。

 『60 minutes Australia』は、レイチェルのインタビューを中心としたエピソードも作っている。その中にはアンナ・ソロキンの過去のインタビュー動画も含まれているのだが、ふたりの表情の作り方が対照的だ。ドラマにおける「アンナを盲目的に崇拝し奢ってもらうのを当たり前と思っていた自称悲劇の女性」像とは違うことがわかる。Vogueがレイチェルを庇う記事を出したのも納得だ。

 レイチェルはアンナについて書いた『My Friend Anna: The true story of Anna Delvey, the fake heiress of New York City』を2019年7月に出版しているが、その中で自分の生い立ちや人となりを丁寧に綴っていなければ、サービスをたかり、自分の旅費すら支払わなかった女性としてひどく誤解されたままだっただろう。現に、ドラマしか観ていなかったときの筆者はレイチェルに対していい印象を持っていなかったが、本人のインタビュー動画を見たり本を読んだりすると同情するしかないし、人として好感を持った。

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