『妻、小学生になる。』は残像の物語? 誰もが抱える、書き換えられない人生のストーリー

『妻、小学生になる。』“新島家の新定番”

 また言葉といえば、「好き」という言葉を意識した途端に相手への気持ちが一層盛り上がることも。圭介の娘・麻衣(蒔田彩珠)の淡い恋は、なんとも微笑ましい。貴恵のように狩人になることはできなくとも、大事に大事に蓮司(杉野遥亮)との関係性を深めていく。だが、「彼女はいるんですか?」とストレートに聞く勇気が出ず「大切な人」と表現してしまったのは、歯がゆい限り。

 大切な人=恋人とは限らない。また蓮司の「いるよ、海の向こうに」という曖昧な返事もまたやきもきさせられる。海の向こうとは外国ともとれるし、地域によっては今生きている世界とは異なる“あちら側の世界”という意味にもなる。まだまだ謎に包まれた蓮司の背景を知っていきたいところだ。

 そして、密かに抱いていた圭介への想いを告げた守屋こそ、大切な人を亡くしていた過去が判明する。明るく振る舞っている人こそ悲しい経験をしているかもしれない、そんな繊細な部分を、このドラマはいつも思い出させてくれる。実の親にさえ「しっかりしなければ」と気張って生きてきた守屋だからこそ、過度な期待をせず、そして大きく失望することもなく、いつでも「なんでも聞きます」と甘えさせてくれる圭介の存在が嬉しかったのだろう。

 誰もが書き換えることのできない、人生のストーリーを抱えて生きている。それはときに自分を「こういう人」と縛り付けるものになったり、「こうありたい」と前を向かせるものになったり……。その定着した記憶や思いこそが、人の魂と呼ばれるものなのかもしれない。寺カフェのマスター(柳家喬太郎)が見ているのは、その残像のようなものなのだろうか。

 だとしたら、千嘉に「消えてくれないかな」と言われたときのパジャマ姿で現れた万理華の魂は、あの絶望を抱えた状態のままということか。もしそうであれば、1日でも早くその悲しみから解き放ってあげたいと思う。しかし、小説を書き上げた瞬間、それまでの記憶を失ったと思われる天才中学生小説家・出雲凜音(當真あみ)の例を見ると、“その日”が来たら、今度は貴恵の記憶が魂と共に抜き出てしまうのではないかと思うと気が気ではない。

 守屋の圭介への告白&ほっぺにキスを目撃してしまった貴恵の気持ちを思うと、そちらもまた複雑だ。愛すべきキャラクターたち1人ひとりの背景が紐解かれると共に、より多くの想いに寄り添いたくなる。現実社会では無情な時の流れに誰も抗えないからこそ、奇跡の物語である本作では、みんなが救われてほしいと願わずにはいられない。

■放送情報
金曜ドラマ『妻、小学生になる。』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54
出演:堤真一、石田ゆり子、蒔田彩珠、森田望智、毎田暖乃、柳家喬太郎、飯塚悟志(東京03)、馬場徹、田中俊介、水谷果穂、杉野遥亮、小椋梨央、吉田羊
原作:村田椰融『妻、小学生になる。』(芳文社『週刊漫画 TIMES』連載中)
脚本:大島里美
プロデュース: 中井芳彦、益田千愛
演出:坪井敏雄、山本剛義、大内舞子、加藤尚樹
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tsuma_sho_tbs/
公式Twitter:@tsumasho_TBS

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