オダギリジョーにそばにいてほしい 『カムカムエヴリバディ』を支える安心感
『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)にて、初の朝ドラ出演を果たしたオダギリジョー。安定感ある彼の演技の素晴らしさに見惚れる日々を送っているのは筆者だけではないだろう。登場して間もない頃は物語の行方を左右する役割を果たしていたが、現在は作品全体のクオリティを底上げしながらドラマを支えているところだ。オダギリは本作に何をもたらしているのか?
上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ら三人の俳優がそれぞれヒロインを務め、彼女たちを中心とした三世代にわたる家族の物語を描く『カムカムエヴリバディ』(以下、『カムカム』)。オダギリが登場したのは、上白石演じる安子から、深津演じる“るい”にヒロインのバトンが渡されてすぐのこと。るいが働くクリーニング店に、オダギリ演じる“ジョー”こと錠一郎は現れたのだった。そのどこか浮世離れした言動から、るいは陰で彼のことを「宇宙人」と呼んでいたが、これは言い得て妙だとうなずいたものである。この時点におけるジョーというキャラクターは掴みどころがなく、“宇宙”とまでは言わないが、軽やかなオダギリの演技の質感はまさに“宙”に浮いているようだったのだ。こうして『カムカム』の世界に登場した“オダギリ=ジョー”だが、この後の展開で一気に印象が変わることになった。それはもちろん、ヒロインのパートナーとなるからだ。
ジョーがジャズトランペット奏者であることが判明した時点で、彼こそがるいにとって最重要人物なのだと確信した方は少なくないはず。本作の中心には「英語」の存在があるが、母・安子と娘・るいの繋がりには「ジャズミュージック」の存在が大きく影響している。私たち視聴者の誰もがるいの視点を介してジョーに憧れを抱きつつ、俯瞰的な視点では彼を見るにつけ、やはり安子のことを思ったのではないだろうか。ジョーは登場するだけで、特別だったのだ。やがて、彼とるいの距離感が変わり、“クリーニング店の娘と顧客”や“トランペット奏者とファン”という関係が恋人関係へと変容していくと、さらに彼は本作において自身の存在感を強めることとなった。“主役級”となっていったのである。
ジョーの穏やかで柔らかな存在は、るいを、ひいては彼女の額の傷が象徴する“悲劇”をも優しく包み込んだ。それからしばらくのジョーは、まるで主人公のようだった。るいたちの後押しもあり、ジャズトランペッターコンテストに参戦。見事に優勝を果たして東京でのデビューが決まり、“主役の座”を勝ち取った。るいとジョーが離れ離れになってしまったこともあり、物語はよりジョー自身にフォーカスすることになったのだ。彼が原因不明の病でトランペットを吹けなくなったことはご存知の通り。それまでの朗らかな性格は消え失せ、“悲劇の青年”として、再び本作に暗さを生み出したーー。