「『湯あがりスケッチ』穂波の湯あがり日記」第2湯 「軽さと重さの狭間に」

「穂波の湯あがり日記」第2湯

 塩谷歩波の『銭湯図解』を原案としたドラマ『湯あがりスケッチ』が2月3日よりひかりTVにて配信された。全8話で構成される本作は、毎話ごとに今も実際に営業している都内の銭湯と、それぞれのエピソードの鍵となる8人の女性が登場し、銭湯のように心温まる物語が紡がれていく。

 主人公・穂波を演じる小川紗良が、“穂波”として執筆した「穂波の湯あがり日記」が到着。各話で穂波が感じたこと、考えたことが、日記形式で綴られている。

第2湯 軽さと重さを心に秘めた長峰(安達祐実)さん

 人を描きたいと思ったのは久しぶりだった。小さいころから絵を描くのはずっと好きだけど、気づけば私の絵は、建物や風景ばかりになっていた。人を描くのは怖い。その人を通して、自分の心が透けて見えるようで。私は他人に深入りするのも、自分自身と向き合うのも怖かった。

 でも、長峰さんは違った。スマホを捨てて、映画の“寅さん”みたいに日本中を旅しているという彼女は、軽さと重さをどちらも心に秘めているような不思議な人だった。たまたま銭湯で出会っただけの私を飲みに誘う気軽さがありながら、話を聞いていけば、どこまで触れていいのかわからないような過去の重みも感じる。私はその軽さと重さの狭間にみるみる引き込まれて、この人をもっと知りたいと思った。

 「またいつか」と言って別れた彼女の行くあてを、私は知り得ない。これまで彼女が歩んだ道のりも、今日この街を訪れた理由も、私に声をかけてくれたのも、本当のところは何もわからない。結局、私と長峰さんは偶然銭湯で居合わせてほんのひとときを過ごしただけの、他人なのだ。それでも、そこで私が感じた安らぎや、背中を押してもらった喜びや、ガード下で食べるモツ煮のあたたかさや、凛とした彼女の横顔には、赤の他人とは言い切れない確かさがあった。

 「さよならだけが人生だ」とはよく言ったものだけど、いつかまたどこかでめぐり逢うことを、少しは期待したっていいだろう。私はそんな身勝手な願望を込めながら、スケッチブックに彼女の横顔を描いた。彼女を通してなら、自分が透けて見えるのも怖くないと思えた。

■放送情報
『湯あがりスケッチ』
ひかりTVにて、毎週木曜22:00〜配信【全8話】
原案:塩谷歩波『銭湯図解』
監督・脚本:中川龍太郎
出演:小川紗良、森崎ウィン、新谷ゆづみ、村上淳、伊藤万理華、安達祐実、臼田あさ美、室井滋、夏子、中田青渚、成海璃子
(c)ひかりTV
公式サイト:https://www.hikaritv.net/sp/yuagari-sketch/index.html?cid=ent_video_yuagari_sketch_of_6
公式Twitter:https://twitter.com/yuagari_sketch
特集ページ:https://realsound.jp/movie/2022/02/post-960070.html

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