『カムカムエヴリバディ』は桃山剣之介ありきの物語? 安子編とるい編の違いを振り返る

『カムカム』安子編とるい編の違いを振り返る

 そしてやはり、夫の錠一郎がいることが大きく、るいは安子が求めていたであろう心を許せる相手との幸せで平凡な家庭を築いた。ただ、錠一郎は10年間以上まともに職につかず、娘を甘やかして育てるという、家族を築いたものにしか分からない新たな問題と対峙しているが、それもまた幸せな悩みなのかもしれない。しかし、安子が聴いていた音楽や名前によって2人は引き寄せられ、安子が作っていた餡子によってるいは家族の生計を立てているという、憎んできた安子によって築かれている家族でもあるというのが人生は面白いと思わせる。

 さて、ひなたは、安子編のような戦争や、るい編の過去の傷を抱えるわけではなく、るいと錠一郎には本当の家族がいなかったこともあり、明るくも甘やかされて育てられる。先代2人はおぼこなのに対し、ひなたは完全におてんば娘だ。父親の影響で、時代劇が大好きだが、地道な努力が苦手で三日坊主な性格。人物紹介では「自分の居場所を見つけられない人生低空飛行な愛らしき女の子」ということで、テンションの違いはあれど、安子やるいと同じく、自分の居場所を見つけていく物語で、京都太秦の時代劇の世界も描かれた『おちょやん』のような展開になりそうだ。

 ただ、このひなた編は引き続きるいの物語でもあり、俳優を目指し挫折する娘をいかに日向の道を歩かせるように支えていくのか。これまでの三代を繋いだ糸が、織りなす布となるように、ひなたに起きることが、るいが安子を許す答え合わせのような様々な出来事になりそうな予感がするし、そうでないと安子があまりにも救われない。世間では孫が和解するきっかけとなることもよく耳にするが、るい編に最初しか登場しなかった雉真家の面々も、ひなたの弟が甲子園を目指すことで再登場の可能性もあり、他にも安子の兄の算太(濱田岳)など、縁を取りなすのがひなたの使命ではないかと考える。

 今作の面白いところは、三代を描く物語ということで、娘が知らない母親の人生を視聴者は知っているということ。つまり視聴者がいわゆる“神の視点”となり、母と娘の性格が似ていることや、同じような恋愛をしていることを微笑ましく見たり、娘が持つ母親への誤解を「そうじゃないんだよ」と気を揉んだり、母娘が別れなければこんな幸せな家庭を築く人生があったのではないかと思ったり……。安子の辛い人生があるから今があるのを知っているからこそ、るいやひなたに対して特別な視点で視聴者が楽しめる。これまでの朝ドラにある実在のテーマに向けてのサクセスストーリーではなく、日常の細やかな幸せや、人との繋がりを楽しむドラマだと考える。また、歴代の朝ドラにあるいくつかの展開や演出パターンを、三世代を描くことで3回も楽しめるドラマだ。しかしそれにしても、ラジオ英語講座と共に生きた物語がテーマだが、それ以上に桃山剣之介(尾上菊之助)が繋ぐ物語だと、今週の放送を観て改めて思う。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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