『湯あがりスケッチ』は“銭湯そのもの” 小川紗良×伊藤万理華の言葉が心に沁みる

『湯あがりスケッチ』は“銭湯そのもの”

 本作が描く「銭湯」は、その空間、佇まいの素晴らしさだけではない。朝ドラ『おかえりモネ』(NHK総合)において、上京したヒロインが住む銭湯兼シェアハウスが「人の行き交う場所」としての役割を果たしていたように、本作の銭湯もまた、どっしりと構えることで、あらゆる夢や希望や悩みを抱える人々の居場所となっている。穂波、朋花、居酒屋で「構想中の舞台の主人公と同じ顔だ」と穂波に話しかけ、穂波たちに「新手のナンパ」だと困惑される「タカラ湯」の常連で劇作家志望の熊谷(森崎ウィン)、愛之助の娘・ゆづ葉(新谷ゆづみ)との、猫と愛之助を交えた待合室での和やかなやりとりは、実に心地よい。

「適当でいいんじゃない?」
「私がいつでも仕事を辞めれるのは、自分の代わりがいくらでもいると思ってるからなんだよね。自分の代わりがいくらでもいるからこそ、好きなことをやっていいんだと考えるようにしてる」
「特別な一瞬はあるけど、特別な人なんていない」

 銭湯の帰り、朋花に言われた言葉が、何事にも真面目に頑張り過ぎる穂波の心を少し軽くする。そして、今度は一人で、開店前の「タカラ湯」に訪れた穂波は、一心に銭湯を実測し、夢中で銭湯のイラストを描き続けるのだった。その未完成ではあるが圧巻のイラストに見入る愛之助と、彼女と再び交わることができたことを喜ぶ熊谷。

 ここは誰もが、誰でもない誰かでいられる場所だ。人が自由に行き交い、いろんな人生が交差する場所。互いに無関心で通り過ぎてもいいし、気が向いたら、そこにいる誰かと関わろうとしてみてもいい。恐らく穂波は、銭湯と、彼らと出会い、誰かと関わるための第一歩を踏み出した。肩に力を入れず、まずは足を踏み入れてほしい。この、銭湯というワンダーランドに。

■放送情報
『湯あがりスケッチ』
ひかりTVにて、毎週木曜22:00〜配信【全8話】
原案:塩谷歩波『銭湯図解』
監督・脚本:中川龍太郎
出演:小川紗良、森崎ウィン、新谷ゆづみ、村上淳、伊藤万理華、安達祐実、臼田あさ美、室井滋、夏子、中田青渚、成海璃子
(c)ひかりTV
公式サイト:https://www.hikaritv.net/sp/yuagari-sketch/
公式Twitter:https://twitter.com/yuagari_sketch
特集ページ:https://realsound.jp/movie/2022/02/post-960070.html

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