CG技術の発展がもたらした動物映画の自由 『でっかくなっちゃった赤い子犬』までの歩み

CG技術の発展がもたらした動物映画の自由

リアルな動物CGといえば

 初めてフォトリアルなCGの動物を登場させた映画は、デヴィッド・ボウイ主演の『ラビリンス 魔王の迷宮』だ。オープニングでCGのメンフクロウが飛んでいる。今観るとぎこちなさが目立つが、当時の観客は驚いたに違いない。

 リアルな動物のCGといえば、『ベイブ』を語らないわけにはいかないだろう。牧羊犬に憧れる子豚のベイブを描いた作品で、多種多様な動物たちが人語を話してコミュニケーションをとる。動物たちの口は、人語に合わせて話しているかのように動く。動物たちの演技を可能にしたのは、アニマルアクターとSFX、CGのおかげだ。1993年公開の『ジュラシック・パーク』で躍動感のあるフルCGの恐竜が世界を圧倒させたばかりだったこともあり、CGアニマルの可能性に映画業界内外が大きな期待を寄せた。

 2001年には、映画の上映前にCGの技術の発展と表現幅を見せる映像が流れるようになった。中でも印象的だったのが、Rythm and HuesというCGスタジオが手がけた、本物とCGのビーグル犬を比較し、ブレイクダウンして見せた映像だ。今ほど画質が良かったわけではなかったので、画面の中のCGのビーグルは本物同然に見えた。だが、2000年初頭では実写の中のCGはどうしても浮いてしまっていた(『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』のスコーピオン・キングのCGが2001年のCG技術だといえば納得してもらえるはずだ)。人間の俳優とCGの動物が共演しても違和感がなくなったのは、2011年の『猿の惑星:創世記』以降だろう。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』は一部のシーンを除いてフルCGのベンガルトラが演技をしているし、『ジャングル・ブック』に至っては全編ブルースクリーンのスタジオ撮影だ。

CGアニマルとの共演

 AHAによって映画に出演する動物たちの権利と安全が守られ、CGアニマルによって演技幅や表現力が増したことは動物好きの映画ファンとしては喜ばしいことだ。だが、CGの動物と共に演技する俳優らに負担はないのだろうか?

 人によって、難しいと感じる場合もあるかもしれないが、そこは、ポジショニングや目線を確認するためのぬいぐるみや、モーションキャプチャー俳優を用意するなどして演技の面でもクオリティの面でも担保できるようになっている。

 今回の『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』にしても、巨大なクリフォードの人形を操作しているし、クリフォードが引き起こす惨劇は特殊効果チームが破壊部隊のような役割をしながら再現している。とはいえ、全てが人形や人のサポートありきの演技だけではない。CGだからこその、自由な発想を映像化する利点もしっかりあって、見応えがある。

 『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』は、技術が成熟したので作ってみた系の超大作ではない。しかし、アニメではなく実写で再現するのはここまで技術が発展しなければできなかっただろう。

 筆者としては、幾度となく焼き直しされてきた子供と動物のバディムービーまでもかCGアニマルで再現されるようになって嬉しい。そして、かつての上司だった、今は亡きプロデューサーに伝えたい。「動物映画は随分変わりました」と。

■公開情報
『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』
全国公開中
出演:ダービー・キャンプ、ジャック・ホワイトホール、アイザック・ワン、トニー・ヘイル
吹替版キャスト:花澤香菜(エミリー)、三森すずこ(オーウェン)、金丸淳一(ケイシ-)、諏訪部順一(ティエラン)
監督:ウォルト・ベッカー
原作:ノーマン・ブリッドウェル『クリフォード おおきなおおきなあかいいぬ』
製作:ジョーダン・カーナー、イオル・ルッケーゼ
音楽:ジョン・デブニー
配給:東和ピクチャーズ
(c)2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
公式サイト:Deka-Koinu.jp
公式Twitter:https://twitter.com/ParamountFamJP
公式Instagram:https://www.instagram.com/ParamountFamJP/

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