『カムカムエヴリバディ』数奇な運命を辿る錠一郎とるいの物語 幸せな第13週を願って

『カムカム』錠一郎とるいの数奇な運命

 2代目ヒロイン・るい(深津絵里)と“ジョー”こと大月錠一郎(オダギリジョー)が暗闇に突き落とされた『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第12週。

 コンテストで優勝を果たし、レコーディングとデビューコンサートの準備のために3カ月間るいと離れて1人先に東京に行くことになった錠一郎。るいにプロポーズをし、デビューコンサートが終われば東京で一緒に暮らす物件を探す約束をして。そう、2人には明るい将来が約束されているかに思われたのに。第12週中ずっと漂っていた不吉な予感は現実のものとなってしまう。

「奈々(佐々木希)のことが好きになった。そやから、お前とは終わりや」

 東京で突然トランペットが思うように吹けなくなった錠一郎はこっそり大阪に帰った際にたまたま鉢合わせたるいに一方的にこう告げた。自分とるいを繋いでいたトランペットが吹けなくなった今、特に彼女には合わせる顔がないようだ。錠一郎からしてみれば“トランペットを吹くこと=生きること”であり、暗闇で見つけたたった一つの その“ひなたの道”をるいと一緒に歩いていきたいと願っていたのに、このままではるいのことまでまた真っ暗闇に一緒に道連れにしてしまうと恐れてのことなのかもしれない。

 相手の幸せを想うがあまり、稔(松村北斗)に自ら別れを切り出したかつての安子(上白石萌音)の姿がどこか思い出された。

 るいからしてみれば、3カ月間何の音沙汰もなく、突然訪れた愛しき婚約者との久々の再会に胸を躍らせる間もなく、耳を疑う現実が突きつけられるのだ。大切な人が容赦なく自分を置いてけぼりにして別の人の元に駆けて行く強烈な胸の痛みは、るいに母親・安子との別れの傷を思い起こさせたかもしれない。

カムカムエヴリバディ

 雨も、ジャズも自身の名前の由来になったルイ・アームストロングも「On the Sunny Side of the Street」も、ジャズ喫茶「Dippermouth Blues」はじめ岡山での断片的な記憶、そして額の傷まで……これまで安子との苦い思い出にまつわるあれこれを全てかけがえのないものにひっくり返していってくれた錠一郎が、るいの最も深い傷をここにきてえぐってしまうのだから何とも皮肉で2人の因縁さえ感じさせる。両親の愛情を知らずに育った“似た者同士”の2人の痛みは共鳴し合うところがあるのだろう、錠一郎の虚ろな表情も見てはいられなかった。

 しかし、るいは錠一郎との触れ合いを通して、胸の奥底にしまい込んでしまっていた母・安子に自身が確かに愛され、大切にされていた感触をどこか取り戻しているのではないだろうか。もしるいが安子に対してかつて自らが言い放った「I hate you」に揺らぎを感じているのならば、それこそ錠一郎が付くしかなかったあまりに残酷で不器用な嘘の裏にある想いにも、いずれ思い至れるのではないだろうか。るいの「私だけを見てくれていた母の笑顔を思い出しとうなかったんです」を「そうか、会いたいんやな、お母さんに」と即座に変換してみせた錠一郎のように。

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