『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が示した、クロスオーバー作品の新たな可能性

 トム・ホランド主演、ジョン・ワッツ監督による、マーベル・スタジオ版『スパイダーマン』シリーズの第3作であり、一つの区切りとなる『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が、ついに公開された。サプライズに溢れた内容が噂されていたことで、ネタバレへの警戒が話題となっていた一作だ。

 本作の驚きは、ディズニーが擁するマーベル・スタジオ作品でありながら、『スパイダーマン』の映画化権を持つ「ソニー・ピクチャーズ」と本格的に組んだ内容になっていたということだ。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)作品でありながら、過去に公開されたサム・ライミ監督の『スパイダーマン』シリーズや、マーク・ウェブ監督の『アメイジング・スパイダーマン』シリーズの世界との、かつてないクロスオーバーが楽しめるのである。

 ここでは、3つの『スパイダーマン』シリーズが合流した本作の背景と、内容を振り返りながら、この試みが何をもたらすことになったのかを考えていきたい。

 もともとマーベル・スタジオが、これまでトム・ホランドを主演に、『スパイダーマン』シリーズを製作できたということ自体が、業界の常識からすると奇跡的なことだった。『スパイダーマン』は、もともとマーベル・コミックの作品ではあるものの、その映画化権については、契約によって長年ソニー・ピクチャーズが所有している。そこで二つの超大作シリーズが製作されたように、ソニーにとって『スパイダーマン』は、多くの観客を惹きつけることのできる重要な存在なのだ。

 しかし、次々に超大作を世界的なヒットに結びつけ、現在までに大きなブームを巻き起こしているマーベル・スタジオ側からの度重なる交渉と、ソニーが『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ以降、新たなシリーズについて見通しが立たなかった事情などから、ビジネス的に相互的なメリットが生まれ、最終的にMCUの『スパイダーマン』が誕生する提携が実現することとなった。実際、その後にソニーが送り出した『ヴェノム』シリーズや、アニメーション映画『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズが注目され、人気を博することになるなど、一見不利な条件に思えたソニーの判断は、結果的に成功したといえるのではないだろうか。

 とはいえ、ソニー・ピクチャーズ側にとって、この提携がベストとは言い難いものだったことは想像に難くない。シリーズが進行するなかで、この契約は一時解消される危機に直面するが、主演のトム・ホランドが嘆願することで、シリーズを継続させるなど、事態は流動的に動いていた。そのなかで、本作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、なんとソニー・ピクチャーズが全面的に協力し、マーベル・スタジオのシリーズと、これまでのシリーズの内容が混ざり合い、ほぼ同程度のウェイトを占めるといった、これまでのシリーズのファンを歓喜させる、驚きの一作になっていたのである。

 マーベル・スタジオのキャラクターと、ソニー・ピクチャーズのキャラクターが、戦い合い、会話をし、お互いに影響を与え合う。そんな趣向が明らかになっていく本作の展開は、ビジネス上の困難な事情があったからこそ、より感動的なものとなっている。その意味では、観客がストーリーだけではなく、映画会社の問題や常識を理解することでより楽しめるという、ある意味でメタフィジカルな要素のある、ライブ的なものになっているのが興味深い点である。ただ、この複雑な事情を背景にした試みを、そのまま映画作品自体としての評価に繋げるべきなのかという点については、映画を評価する立場としては悩まなければならない課題でもある。

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