『カムカムエヴリバディ』は朝ドラの教科書に? 藤本有紀とタランティーノ作品の共通点

『カムカムエヴリバディ』は朝ドラの教科書?

 日本語と英語という言語のズレが物語に絡んでくる展開も『イングロリアス・バスターズ』などのタランティーノ映画を思わせるものだ。何より自分が影響を受けた作品の引用を散りばめ、本歌取りする作劇手法。タランティーノは自分の好きなB級映画や音楽を劇中に引用するが『カムカム』では、お笑い番組やジャズがラジオから流れてくる。

 るい編に入ると映画やテレビの映像も加わり、当時の風俗が矢継ぎ早に登場する。おそらく同時代を生きた方にとっては懐かしくてたまらないのだろうが、1976年生まれの筆者のような同じ時代を体験していない視聴者が観ても面白いのは、登場する文化的アイテムが物語を支える符丁として適切に配置されているからだろう。だから、劇中に登場する作品の意味を考え出すと止まらなくなる。

 『ちりとてちん』では、落語を軸に物語を組み立てていった藤本だったが、『カムカム』では、参照されている文化が幅広く、ラジオ開始から100年の歴史を「おとぎ話」として語り直している。実に巧みな脚本で『ちりとてちん』とともに、後に朝ドラの教科書として扱われるかもしれない。

 ただ、脚本が上手すぎることは良し悪しで、ともすればドラマという枠組みを超えて脚本の骨組みの方が悪目立ちしてしまう。上手すぎるからこそ藤本の脚本は映像化が難しい。朝ドラという万人が楽しむ物語に着地させるためには、彼女の世界を表現できる俳優は必要不可欠だったが、ここで深津絵里を起用できたことは『カムカム』にとって、とても幸運だった。

 映画『悪人』を筆頭に、深津は平凡に見える女性が抱える漠然とした不安を表現することがとても上手い。るいの額には傷があり、幼少期に母親から捨てられたがゆえに、常に漠然とした不安を抱えて生きている。そんなるいが抱える不安を深津はさりげない仕草の中に常に滲ませている。

 同時に不安を抱える姿が、悲劇にも喜劇にも見えるのが彼女の面白さだ。深津の複雑な芝居があるからこそ、喜劇としての『カムカム』は成立している。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00~8:15、(再放送)12:45~13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30~7:45、(再放送)11:00 ~11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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