『シルクロード.com』が問う、インターネットの“自由” 普通の青年が怪物となるまで

『シルクロード.com』が問う、ITの自由

ネットの発展のグレーゾーン

 世界を変えたいと言っても、単なる違法ドラッグ販売じゃないかと言われれば、それはその通りだ。ロスは法律を犯しただけで、唾棄すべき犯罪者と言われれば否定はできない。

 だが、彼の行為はネットの発展の歴史を振り返ると、全てを否定することは難しいかもしれない。

 P2P技術で音楽ファイルを交換できるナップスターが登場した時、それは音楽コンテンツの著作権侵害を助長した。しかし、その技術と発想が、Spotifyという音楽サイトを誕生させ、今では世界の音楽カルチャーを支える存在になっている。

 YouTubeが登場した当初は、違法コンテンツだらけだったが、今では動画プラットフォームとして多くの人が作品を発表するツールとしての地位を築いている。

 それは誕生当初、破壊的イノベーションとして熱狂を生んだ。何を破壊したかと言えば、既存の法の枠組みや規範を破壊したのだ。そして、新しいコンテンツの流通と新しい文化を生み出すことに今貢献している。それらのサービスは、しばしばグレーゾーンに立ち入りながら、拡大してきたのではなかっただろうか。

 ロスの「シルクロード」はそのように発展していく可能性はあっただろうか。ドラッグと音楽や映画などのコンテンツは違うという意見もあるだろう。しかし、両者を分けるのは既存の価値観による規範に過ぎないかもしれない。

 程度問題は別として、ロスのやったことは、ネットの発展の歴史の中で繰り返されてきたことでもあり、そういう姿勢がネットの発展を支えたとも言える部分がある。ロスの行為はグレーとは言えず完全に黒だが、グレーと黒の間に明確な境界線は引けないのだ。

本当に自由に生きるために必要なこと

 結果として、ロスは革命家の器ではなかった。彼は、ちょっと自由主義に寄りすぎているが、オフラインではどこにでもいそうな良き恋人であり、良き友人であり、良き家族であり、良き隣人だった。しかし、分不相応な夢が彼をおかしくしてしまった。

 彼は、世界を変えようとして、世界に振り回されてしまった。人間の欲望が際限なく渦巻くダークウェブの世界は、自由だ。しかし、自由な世界で自らが立てた倫理を失わずに生きるのはとても難しい。法にも規範にも縛られないというのは、逆に言えば法も規範も自分を止めてくれない世界なのだ。そんな場所で、正気を保ち続けるには、ものすごく強い精神力が必要だ。

 深淵(ダーク)を覗く者は、深淵に覗き返されてしまう。心の弱い筆者はロスを嗤うことはできない。きっと、強靭な心の持ち主だけが本当の意味で自由に生きられるのだ。

■公開情報
『シルクロード.com ―史上最大の闇サイト―』
1月21日(金)より、新宿バルト9ほかにて全国公開
監督・脚本:ティラー・ラッセル
出演:ジェイソン・クラーク、ニック・ロビンソン
原案:デヴィッド・クシュナー
配給:ショウゲート
2021年/アメリカ/スコープサイズ/5.1ch/117分/原題:Silk Road
(c)2020 SILK ROAD MOVIE,LLC ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://silkroad-movie.com
公式Twitter:@silkroadcom_jp

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