『イカゲーム』の世界的ブームにも通じる? 『地獄が呼んでいる』成功の理由

『地獄が呼んでいる』成功の理由は?

 Netflix最大のヒットを記録し、世界的なブームとなった韓国のドラマシリーズ『イカゲーム』。その成功は大きなインパクトを映像業界にもたらすこととなった。その熱がいまだ冷めやらず、世界の視聴者たちが“ネクスト『イカゲーム』”といえる作品の出現を望んでいる状況のなか、最高のタイミングでリリースされた韓国の新たなNetflixドラマシリーズが、ダークホラー『地獄が呼んでいる』である。

 もはや、いま世界で最も人気が集まっているのは韓国作品と言っても過言ではないかもしれない。本シリーズ『地獄が呼んでいる』は、『イカゲーム』の記録には及ばないものの、70以上の地域でトップ10入りを果たすなど、これまでのアジア発の実写作品では考えられないような世界的な成功を、続けて達成することとなった。ここでは、そんなシリーズの内容やテーマを紹介しながら、成功の理由を考えていきたい。

 監督は、アニメーション作品や実写作品を手がけ、『新感染』シリーズをヒットさせたヨン・サンホ。近年はNetflixで『サイコキネシス -念力-』(2018年)を発表し、アクションやサスペンス描写の才能を継続して発揮している。本シリーズ『地獄が呼んでいる』は、監督の友人でもあるという漫画家チェ・ギュソクとともにヨン監督が作り上げたウェブ漫画を原作に、超常的な事件と新興宗教の台頭を題材にしている。

 本シリーズの第1話で描かれるのが、人間の数倍の大きさで岩のような怪物たちが突如として市街地に現れ、恐るべきパワーで人間を襲って焼き尽くしてしまうという、現実離れした事件だ。近くにいた市民たちはパニックになり逃げ惑い、その常軌を逸した光景は、治安維持に務めなければならないはずの警察を混乱させる。そんな悪夢的な事件はその一回にとどまらず、同様の現象が至るところで起こり始めるのだった……。

 謎に包まれたエピソードが進むことで、怪物に殺されるのは、事前に「死の天使」からの予言で地獄行きを宣告された者だけであることが分かってくる。そして告げられた日時に怪物がやってきて、予告通りに惨殺されるのである。その一方的な暴力は老若男女問わず振るわれ、配信作品ならではの過激な描写で表現される。事件の多発に人々が不安にさいなまれるなか、救いの道を説くのが、新興宗教「新真理会」のカリスマ的な指導者チョン・ジンスだった。彼を演じるのは、『バーニング 劇場版』(2018年)や、Netflix『#生きている』(2020年)で評価を高めているユ・アインである。

 「新真理会」のジンスは、この現象を“神の意志”だと語り、罪を犯さずに生きなくてはならないと民衆に説明する。助かりたい多くの市民たちは彼の言葉に惹かれ、大手メディアまでもがジンスを祭り上げることで、「新真理会」の信者数は激増していくことになる。弁護士のヘジンや刑事のギョンフンらは、人々の生き方や価値観が大きく変わっていく混乱した状況のなかで、事態の真実や「新真理会」の秘密に迫っていく。 

 興味深いのは、このような状況に陥ることで、社会の犯罪率が激減していくという皮肉な展開である。その点については、日本の漫画作品『DEATH NOTE』に近いといえるだろう。悪いことをしなければ死の予言や地獄行きを逃れられるのならば、多くの人々は清廉潔白に生きようとするはずであり、結果としてクリーンな社会が到来するのかもしれない。だがその一方で、「新真理会」の教義を信じる過激派“矢じり”は、法律を無視した暴力的な自警活動を行っているのである。神の名を騙りリンチを繰り返す“矢じり”の行動は、神の目から見て罪ではないのだろうか。

 「新真理会」が繁栄し、人々の生き方が劇的に変わったのは、地獄行きを予言される人物が、それほどの大罪を犯しているように見えないということにも起因している。神が公平ならば、もっと分かりやすい極悪人から地獄行きにしていくのではないだろうか。そんな状況は、「新真理会」の説明が果たして正しいのか、われわれに疑問を投げかけることになる。

 ほとんどの人間は大小の差はあれ、何かしらの罪を背負っているものである。だから地獄行きになる理由は、ほとんどの人間にあるといえばあるということになってしまう。その意味で、怪物に人が襲われるという事態は、「死の天使」にあらかじめ地獄行きが予言されるという非現実的なプロセスを経ているとはいえ、全ての人間が予期しない病気や事故などで寿命をまっとうできない可能性がある現実世界の仕組みと、根本的には同じなのではないだろうか。

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