『地獄が呼んでいる』は現代社会の映し鏡? ヤン・イクチュンら実力派俳優の競演も必見

『地獄が呼んでいる』は現代社会の映し鏡?

“地獄”に翻弄される実力派キャスト陣に注目

 不可解な現象がジンスの言ったとおりに説明付けされ、大衆が変化していく1〜3話まで、そして、その4年後となる4〜6話までの後半に、視聴者が同じ目線に立つことができ、その背中を追うことになる市井の人物が2人いる。

 まず、「新真理会」やジンスに不信感を持っていたことから、矢じりの暴力の矛先となる刑事チン・ギョンフン。演じるのは、『あゝ、荒野』『息もできない』などで日本の映画ファンにはおなじみのヤン・イクチュンだ。地獄や神の裁きなどはまるで信じていないが、妻を通り魔的犯人に殺害された過去があり、残された娘ヒジョン(イ・レ)がジンスに傾倒している。ジンスの“最後の瞬間”に対峙した後にギョンフンがとった選択を、誰も責めることなどできない。

 一方、後半の主人公となるのは、生まれたばかりの我が子が告知を受けることになるTVプロデューサーのペ・ヨンジェ。まだ名前もない新生児に試演が起こるなんて初めてのケースだ。罪深い人間だけが神に裁かれることを教義とする「新真理会」の嘘に、ヨンジェと妻ソン・ソヒョン(ウォン・ジナ)が気づき始めたとき、教団の幹部ユジ執事(リュ・ギョンス)や矢じりからの執拗な追跡に遭ってしまう。

 「新真理会」と、彼らの嘘を暴く謎の組織「ソド」との板挟みになるヨンジェを演じるのは、「演技の天才」との異名をとる若手実力派パク・ジョンミン。映画『それだけが、僕の世界』では天才的なピアノの才能を持つサヴァン症候群の青年を演じたかと思えば、『スタートアップ!』では今どきの迷える若者を演じた。ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェが共演する最新映画『ただ悪より救いたまえ』ではキーパーソンとなるトランスジェンダーの女性に扮している。カメレオン俳優といえる彼が、父親になったばかりのサラリーマンを演じる姿は新鮮でもある。

 そしてシリーズを通じて登場するのが、ミン・ヘジンという女性弁護士。ミン弁護士は当初からジンス議長に疑念を持ち、一連の現象は単なる超常現象にすぎないと主張してきた。そのために前半では、矢じりからの壮絶なリンチに遭い、母や同僚を失っている。後半では打って変わって護身術をマスターし、生身の体で矢じりや新真理教の執事たちに果敢に立ち向かっていく。

 『家族なのにどうして~ボクらの恋日記~』や『ウォッチャー 不正捜査官たちの真実』などに出演してきたキム・ヒョンジュが熱演するミン弁護士は、『マイネーム:偽りと復讐』のハン・ソヒにも重なり、『アトミック・ブロンド』のシャーリーズ・セロンや『フリー・ガイ』のジョディ・カマーのように、彼女の意思の強さが臨場感あるカメラから伝わってくる。

 『地獄が呼んでいる』はおそらく今後シーズン2が製作されるだろうが、最終話のラストで起きたこともしかり、あまりにも謎が多すぎる。ただ、1つ確かなのはミン弁護士が抱いた赤ん坊の存在だ。こんなにも生きづらい、世知辛い社会に生き残った命。この世界の一員となった新しい命こそ、護られなければならない希望だ。自身の原作Web漫画をドラマ化したヨン・サンホ監督は、『新感染』シリーズがそうだったように、子を思う親心や家族愛、隣人愛といった人間の本質をちゃんと信じて肯定している。私たちは何を信じて生きていけばいいのか、“地獄”から少なからずヒントをもらえたような気がするのだ。

■配信情報
『地獄が呼んでいる』
Netflixにて独占配信中
監督:ヨン・サンホ
出演:ユ・アイン、キム・ヒョンジュ、パク・ジョンミン、ウォン・ジナ、ヤン・イクチュン

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