『チック、チック…ブーン!』と鳴動する秒針と大爆発は何をふっとばす?

荻野洋一の『チック、チック…ブーン!』評

 ステージ3:死者の記憶。今回の『チック、チック…ブーン!』はジョナサン・ラーソン本人よりも20歳年下、ブロードウェイ演劇界で今をときめくスーパースター、リン=マニュエル・ミランダの映画監督デビュー作となった。志なかばで夭折した先輩ラーソンに対するリスペクトを最大限に込めて、ミランダは『チック、チック…ブーン!』を映画化しただろう。『チック、チック…ブーン!』は1990年にオフ=ブロードウェイで上演された、ジョナサン・ラーソンにとっては『RENT/レント』の前作ということになるが、今回の映画ではラーソンの死までも扱っている。『チック、チック…ブーン!』も遺作の『RENT/レント』も包含しつつ、オマージュが捧げられている。ミランダ自身、ハリウッド進出する際に『チック、チック…ブーン!』を選んだこと、自身のブロードウェイの大ヒット作『イン・ザ・ハイツ』の映画化の方はむしろ、『クレイジー・リッチ!』(2018年)の朱浩偉(ジョン・M・チュウ)監督に一任した上で、『チック、チック…ブーン!』映画化に挑んだのだから、その真情は推して知るべしだろう。

 現実に即して言うなら、たしかに壮大なモブシーンが頻発する『イン・ザ・ハイツ』は新人監督ではちょっと荷が重い。『チック、チック…ブーン!』は主人公の一人称映画であるから、リン=マニュエル・ミランダとしても初挑戦としてはこちらの方が組み易しと考えたとしてもあながち誤りではないだろう。ただし、『イン・ザ・ハイツ』と『チック、チック…ブーン!』は双生児的でもある。どちらもニューヨークの片隅で生きる貧しい若者たちを描いており、『イン・ザ・ハイツ』はエスニックマイノリティを、『チック、チック…ブーン!』はセクシャルマイノリティを厚めに描いたという差異があるが、このパンデミック渦中の2021年という年に『イン・ザ・ハイツ』『チック、チック…ブーン!』、そしてスティーヴン・スピルバーグによって『ウエスト・サイド・ストーリー』がリメイクされるという事態は、偶然ではないように思える。そしてこの状況は、クリント・イーストウッドによって映画化された『ジャージー・ボーイズ』が高い評価を得た2014年以来、醸成されたブロードウェイミュージカル映画化の復興気運が、ある頂点へと結実したことを示しているのではないだろうか。

■公開・配信情報
『tick, tick… BOOM!:チック、チック…ブーン!』
一部劇場にて公開中
Netflixにて独占配信中
監督・プロデューサー:リン=マニュエル・ミランダ
脚本:スティーヴン・レヴェンソン
出演:アンドリュー・ガーフィールド、アレクサンドラ・シップ、ロビン・デ・ヘスス、ジョシュア・ヘンリー、ジェディス・ライト、ヴァネッサ・ハジェンズ、ブラッドリー・ウィットフォード
(c)Macall Polay/NETFLIX

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる