「現代アートハウス入門」第2弾、『マッチ工場の少女』など全プログラム発表 予告編も

 ユーロスペースなど全国24館の“アートハウス”をつないで12月11日から17日にかけて同時開催される連続講座「現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜 Vol.2」の全プログラム内容が発表され、あわせて予告編が公開された。

 日本の“アートハウス”の歴史を彩ってきた傑作を上映し、気鋭の映画作家たちを講師に迎え、レクチャーやトークで映画の魅力に迫る連続講座「現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜」の第2弾。

 イランの巨匠アッバス・キアロスタミ監督の『クローズ・アップ』(1990年)、フィンランドの鬼才アキ・カウリスマキ監督の『マッチ工場の少女』(1990年)、ボリビアのウカマウ集団の『鳥の歌』(1995年)、ダイレクト・シネマの開拓者メイズルス兄弟の『セールスマン』(1969年)、ルイス・ブニュエル監督の問題作『ビリディアナ』(1961年)、ジャン・ルーシュ監督によるシネマ・ヴェリテの金字塔『ある夏の記録』(1961年)、そしてロベルト・ロッセリーニ監督とイングリッド・バーグマンが生んだネオ・レアリズモの傑作『イタリア旅行』(1954年)。作られた時代も地域も異なるカラフルな7本は、いずれも劇場のスクリーンで観られる機会が限られていた貴重な作品だ。

 上記の「ネオクラシック(新しい古典)」と呼びうる作品を7夜連続日替わりで上映。気鋭の映画作家たちが講師として登壇し、各作品の魅力を解説。さらに、全国の参加者とのQ&Aを交えながら、これからの“アートハウス”についての知見を共有する。

 『クローズ・アップ』では、失業者のサブジアンがバスで隣り合わせた裕福そうな婦人から読んでいた本について聞かれ、なりゆきから自分が著者で映画監督のマフマルバフだとつい偽ってしまう。婦人の家に招かれた彼は、映画の話を情熱的に語るうちに、架空の映画製作の話にこの家族を巻き込み…...。映画監督だと身分を偽り、詐欺で逮捕された青年の実話をもとに、再現映像とドキュメンタリーを交差させて描いた異色作。レクチャー講師である深田晃司は「アッバス・キアロスタミとモフセン・マフマルバフの傑作群は、まだ二十歳前後であった私をイラン映画に心酔させた。『クローズ・アップ』は中でも特に熱狂した一作で、映画の底なしの可能性をこの作品で感じて欲しい」とコメントを寄せている。

 『マッチ工場の少女』の主人公であるマッチ工場で働くイリスは、母と義父を養っている。ある日、給料でドレスを衝動買いしてしまった彼女は、義父に殴られ、母からドレスの返品を命じられる。ついに我慢できなくなった彼女は、家を飛び出しディスコで出会った男と一夜を共にするが、その男にも裏切られ…...。何の変哲もない娘のどん底の人生を淡々と描き、絶望的な状況になぜか笑いが込み上げてくるカウリスマキ映画の真骨頂ともいえる一作。トーク講師の岨手由貴子は「『クラシック映画』と聞くと身構えてしまう人もいるかもしれませんが、それらは製作されてから何十年も、多くの人を魅了してきました。そんな映画の抗えない魅力を、一緒に反芻していく時間になればと思っています」とコメントを寄せた。

 『鳥の歌』は、16世紀にアンデスを「征服」したスペイン遠征隊の行為を、批判的に描く映画を製作しようとした撮影隊が直面した現実を描く。 撮影に訪れた先住民の村で「ここから出ていけ!」と詰め寄られた映画人たちは、やがて問題の本質に気づく。アンデス世界の価値観に基づく独自の映画言語でゴダールらにも衝撃を与えたボリビア・ウカマウ集団の代表作の一つ。ロカルノ国際映画祭「質と刷新」賞受賞であり、トーク講師の小田香は「アートハウスはあやしげな場所に見えることもあるかもしれませんが、それ以上に妖しい映画がかかっています。鑑賞後はより健全に、より不健全に、もしくはその両方になるかもしれません。あの映画のここは好きであそこは苦手など、誰かに言いたくなって、伝わらなくて、その体験まるごと、心のどこかに残り発酵していく映画がかかっています」とコメントした。

 『セールスマン』ではボストンからフロリダへ。聖書の訪問販売員たちの旅にカメラは密着する。彼らが訪ねるのは教会の信者で、一人暮らしの未亡人や、難民、部屋代も払えない子持ち夫婦など。安いモーテル、煙るダイナー、郊外のリビング、月賦払い.…..。物質主義的社会の夢と幻滅、高揚と倦怠が奇妙に交差する、アメリカの肖像画。ダイレクト・シネマのパイオニア、メイズルス兄弟のマスターピースを本邦初公開。レクチャー講師の想田和弘は「真っ白で空虚なスクリーンなのに、いや、真っ白で空虚なスクリーンだからこそ、いったい何が映し出されるのか、無限の可能性が存在しているんですね。なんだか不思議じゃないですか?!」とコメントを寄せた。

 『ビリディアナ』の主人公、修道女を目指すビリディアナは、叔父の屋敷に呼び出される。叔父は亡き妻に似た彼女を引き止めようと嘘をつくが、それに気づいた彼女は家を去る。絶望した叔父は自殺。責任を感じた彼女は貧しい人々を叔父から受け継いだ屋敷に住まわせ世話しようとするが…...。カンヌ国際映画祭パルムドール受賞の一方で、カトリック教会から大きな非難を浴び、本国スペインやイタリアで上映禁止に至った問題作。トーク講師の広瀬奈々子は「ああ、そうか、自分はこの世界に対して、『ちょっと待った』を言いたかったのだと気づかされる映画がある。新しいものの見方を発見し、立ち止まって何度も考え、答えのない旅に出る。いい映画には共感や同調よりも、もっと豊かで驚きに満ちたものが、色褪せることなくたくさん詰まっている」とコメントした。

 『ある夏の記憶』の舞台はパリ、1960 年、夏。街ゆく人々に軽量16ミリカメラと録音機が問いかける。あなたは幸せですか? あるいは、愛、仕事、余暇、人種問題について.…..。作り手と被写体とが制作プロセスを共有することで、映画が孕む作為性や政治性が明らかになり、リアルとフィクションの概念が問い直される。映画作家で人類学者のルーシュと、社会学者で哲学者のモランによるシネマ・ヴェリテの金字塔。トーク講師の小森はるかは「学生の頃に偶然観ていた映画が、数年経ってから、自分にとっての大切な一本だったと気付くことが増えました。途切れ途切れに蘇ってくる場面は、あの時わからなかった経験も、大事なものだと教えてくれました」と語っている。

 『イタリア旅行』では結婚8年目、一見仲の良いカテリーナとアレックスが、実は破局寸前。ベズビオ火山、ポンペイの遺跡、カプリ島などをめぐりながら、二人は離婚へと突き進んでいくのだが.…..。ロッセリーニは、バーグマンとサンダースに即興的な演技を求め、生々しい感情のゆらぎをフィルムに焼き付けた。ゴダールに「男と女と一台の車とカメラがあれば映画は撮れる」と言わしめたネオ・レアリズモの傑作。トーク講師の三宅唱は「『人生は短すぎる』『だからこそ楽しまないと』いつどこでなぜその言葉が発せられるのか。私はその場面においてなにを見ていただろう?」とコメントを寄せた。

【連続講座「現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜 Vol.2」】予告編

 メインビジュアルは前回に引き続きloneliness books、予告編はrestafilmsが担当。また、2021年に鳥取県でオープンしたばかりのジグシアターの参加が決定。全24館の映画館をつないでの同時開催となる。

『クローズ・アップ』(c)1990 Farabi Cinema
『マッチ工場の少女』(c)THE MATCH FACTORY
『鳥の歌』(c)GRUPO UKAMAU
『セールスマン』
『ビリディアナ』(c)1991 Video Mercury Films
『ある夏の記録』(c)DR
『イタリア旅行』(c) Films Sans Frontieres
深田晃司(映画監督)
広瀬奈々子(映画監督)
稲川方人(詩人/編集者)
小森はるか(映像作家)
三宅唱(映画監督)
小田香(映画作家)
大江崇允(映画作家/脚本家)
大川景子(映画編集)
太田昌国(シネマテーク・インディアス)
想田和弘(映画作家)
岨手由貴子(映画監督)
月永理絵(エディター/ライター)
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『クローズ・アップ』(c)1990 Farabi Cinema
『マッチ工場の少女』(c)THE MATCH FACTORY
『鳥の歌』(c)GRUPO UKAMAU
『セールスマン』
『ビリディアナ』(c)1991 Video Mercury Films
『ある夏の記録』(c)DR
『イタリア旅行』(c) Films Sans Frontieres
深田晃司(映画監督)
広瀬奈々子(映画監督)
稲川方人(詩人/編集者)
小森はるか(映像作家)
三宅唱(映画監督)
小田香(映画作家)
大江崇允(映画作家/脚本家)
大川景子(映画編集)
太田昌国(シネマテーク・インディアス)
想田和弘(映画作家)
岨手由貴子(映画監督)
月永理絵(エディター/ライター)
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■開催情報
「現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜 Vol.2」
12月11日(土)〜12月17日(金)ユーロスペースなど全国24館同時開催
【全プログラム】
第1夜 :12月11日(土)開映19:00 (本編99分+レクチャー60分)
『クローズ・アップ』
監督・脚本・編集:アッバス・キアロスタミ
撮影:アリ・レザ・ザリンダスト
録音:モハマッド・ハギギ、アフマッド・アスガリ
出演:ホセイン・サブジアン、ハッサン・ファラズマンド、モフセン・マフマルバフ
1990年/イラン/99分/カラー/原題:Nema-ye Nazdik
(c)1990 Farabi Cinema
レクチャー講師:深田晃司(映画監督)

第2夜:12月12日(日)開映:19:00 (本編69分+トーク60分)
『マッチ工場の少女』
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:カティ・オウティネン、エリナ・サロ、エスコ・ニッカリ、ベサ・ビエリッコ、レイヨ・タイバレ
1990年/フィンランド/69分/カラー/原題:Tulitikkutehtaan tytto
(c) THE MATCH FACTORY
トーク講師:岨手由貴子(映画監督)、大江崇允(映画作家/脚本家)

第3夜:12月13日(月)開映:19:00 (本編102分+トーク60分)
『鳥の歌』
監督・脚本:ホルヘ・サンヒネス
撮影監督:ラウル・ロドリゲス、キジェルモ・ルイス
音楽:セルヒオ・プルデンシオ
出演:ジェラルディン・チャップリン、ホルヘ・オルティス
製作:ウカマウ集団
1995年/ボリビア/102分/カラー/原題:Para recibir el canto de los pajaros
(c)GRUPO UKAMAU
トーク講師:小田香(映画作家)、太田昌国(シネマテーク・インディアス)

第4夜:12月14日(火)開映:19:00(本編91分+レクチャー60分)
『セールスマン』
監督:アルバート・メイズルス、デヴィッド・メイズルス、シャーロット・ズワーリン
撮影:アルバート・メイズルス
編集:デヴィッド・メイズルス、シャーロット・ズワーリン
音響:ディック・ヴォリセク
1969年/アメリカ/91分/モノクロ/原題:Salesman
レクチャー講師:想田和弘(映画作家)

第5夜:12月15日(水)開映:19:00(本編92分+トーク60分)
『ビリディアナ』
監督:ルイス・ブニュエル
脚本:ルイス・ブニュエル、フリオ・アレハンドロ
撮影:ホセ・フェルナンデス・アグアヨ
編集:ペドロ・デル・レイ
出演:シルビア・ピナル、フェルナンド・レイ、フランシスコ・ラバル
1961年/メキシコ・スペイン/92分/モノクロ/原題:Viridiana
(c)1991 Video Mercury Films
トーク講師:広瀬奈々子(映画監督)、稲川方人(詩人/編集者)

第6夜:12月16日(木)開映:19:00(本編90分+トーク60分)
『ある夏の記録』
監督:ジャン・ルーシュ、エドガール・モラン 撮影:ミシェル・ブロー、ラウール・クタール
出演:マルスリーヌ・ロリダン、ジャン=ピエール・セルジョン、ナディーヌ・バロー
1961年/フランス/90分/モノクロ/原題:Chronique d'un ete
(c)DR
トーク講師:小森はるか(映像作家)、月永理絵(エディター/ライター)

第7夜:12月17日(金)開映:19:00(本編85分+トーク60分)
『イタリア旅行』
監督・脚本:ロベルト・ロッセリーニ
脚本:ヴィタリアーノ・ブランカーティ
撮影:エンツォ・セラフィン
音楽:レンツォ・ロッセリーニ
出演:イングリッド・バーグマン、ジョージ・サンダース
1954年/イタリア・フランス/85分/モノクロ/原題:Viaggio in Italia
(c)Films Sans Frontieres
トーク講師:三宅唱(映画監督)、大川景子(映画編集)

【開催劇場】
東京:ユーロスペース、シネマネコ
神奈川:シネマ・ジャック&ベティ
群馬:シネマテークたかさき
宮城:フォーラム仙台
山形:フォーラム山形
福島:フォーラム福島
新潟:新潟・市民映画館シネ・ウインド
石川:シネモンド
富山:ほとり座
長野:長野相生座・長野ロキシー
愛知:名古屋シネマテーク
大阪:シネ・ヌーヴォ、第七藝術劇場
京都:京都シネマ
兵庫:元町映画館
鳥取:ジグシアター
広島:横川シネマ、シネマ尾道
愛媛:シネマルナティック
福岡:KBC シネマ 1・2
大分:シネマ5
熊本:Denkikan
沖縄:桜坂劇場

【参加料金】
各プログラム、30歳以下:1,200円/31歳以上:1,800円(全て税込)
※一部劇場では、30歳以下を対象とした特別先行予約あり。詳しくは各劇場にお問い合わせください。

企画・運営:東風
企画協力・提供:ユーロスペース
協力・提供:アイ・ヴィー・シー/アンスティチュ・フランセ日本/グッチーズ・フリースクール/コミュニティシネマセンター/シネマテーク・インディアス/ノーム
公式サイト:https://arthouse-guide.jp/
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