道長よ、もう少し“隠す”ことを覚えてくれ 『光る君へ』ハラハラする倫子とまひろの関係性
NHK大河ドラマ『光る君へ』第44回「望月の夜」で、まひろ(吉高由里子)の局で、まひろと道長(柄本佑)、そして道長の嫡妻・倫子(黒木華)が鉢合わせる場面があった。まひろと道長、そして倫子が同じ場所にいる場面を観るとどうしてもハラハラしてしまう。
まず、道長の態度がまひろと倫子で露骨に違うことにハラハラする。道長は自身の態度を意図的に変えているわけではないはずだ。しかし道長は“三郎”だった頃から良くも悪くも正直者であり、己の心に嘘をつくことができない。それが態度に表れている。
道長にそのつもりがなくとも、まひろに対する道長の態度は、女房のうちの一人と接するには愛おしさが表れすぎている。まひろが藤壺に来てからというもの、道長は頻繁にまひろの局を訪ねているようだし、時には共に空を見上げる。第36回ではまひろと道長の関係が女房たちの間で噂になる中、道長は「五十日の祝」の場でまひろを呼び寄せて歌を交わす始末。道長のまひろを思う気持ちは十二分に理解できるが、もう少し周囲に気を配ってほしいものである。
一方で、倫子に対しては一歩引いたような態度に見える。家族としての愛はさすがにあると思うが、道長は倫子に対して恋しいまなざしを向けることはない。むしろ、第12回で倫子のもとへ訪れた時から変わらず、倫子からの愛に目をそらし続けているような気がしてならない。第12回では、道長は倫子に見つめられると視線をそらし、倫子から抱きしめられると“覚悟を決めた”ように倫子を受け入れる。愛するまひろとの約束を果たすため、己の使命を果たす“覚悟を決めた”のだと理解できても、いち視聴者としては、倫子がどれほど道長を想っているかを知っているわけだから、倫子の心情を思うと受け入れ難い場面でもあった。
第44回では倫子から「お二人で何を話されていますの?」と問いかけられた途端、声のトーンが変わる。「政の話だ」とぶっきらぼうに返したうえ、倫子から「政の話を、藤式部にはなさるのね」と含みのある言い方をされても、淡々と「皇后様のお考えを知っておかねば、すんなりとは政はできぬ」と返す。摂政と左大臣を辞する決意をまひろに打ち明けに来た時は心を開いていたにもかかわらず、倫子に話しかけられた途端に心を閉ざしたように思え、好ましい態度ではないよな、と考えてしまった。
また道長に愛情を向けているまひろにも倫子にもそれぞれ報われないものがあるから、彼らのやりとりにハラハラしたり胸が苦しくなったりするのだと思う。まひろの場合、第11回で描かれたように決して越えることのできない身分差があり、道長の「北の方」にはなれなかった苦しみがある。一方で倫子は、道長の「北の方」となったが、愛あっての結婚ではない。
特に倫子は、サロンで親交を深めることになったまひろに「私、今、狙っている人がいるの」「必ず夫にします。この家の婿にします」と打ち明けるほど、道長に一途な愛を向けていたが、道長の思いは先述した通りである。そして倫子は、道長に自分でも明子(瀧内公美)でもない、心から愛でる相手がいることに気づく。第36回でまひろと道長が歌を交わすのを見て、倫子は顔を曇らせていた。ここで道長が心から愛でる相手がまひろだと勘付いたように思えるが、倫子は決して追及しない。倫子には道長の出世を支えてきた自負があるのだろう。実際、道長が平安時代の最高権力者となり得たのも、道長の3人の娘が3つの后の地位を占めることになったのも、潤沢な資金を持って道長を支え、おっとりした性格ながらも何事にも動じない精神力を持った倫子の存在が大きい。