『おかえりモネ』が描いた相手に寄り添うための“手当て” 百音と菅波の“ニコイチ”に寄せて

『おかえりモネ』が描いた“手当て”

 そして、その寄り添う一つの方法として描かれたのが“手当て”だ。車椅子マラソン選手・鮫島(菅原小春)が背中をつった時と同じように、百音は菅波が過去に負った心の痛みをさすることで取り除こうとした。そんな人の温もりに触れた菅波も、同じように寄り添うことで相手の痛みをわかろうとしたのだ。また、菅波が未知(蒔田彩珠)や亮との向き合い方に迷う百音へ、「まずはここが痛いって言わせてあげるのがいいんじゃないですか」とアドバイスする場面も。

 身体の痛みも、心の痛みも目には見えない。だから時間はかかるし、時間をかけたからといって相手が心を開いてくれるとは限らないけど、まずは痛いと嘆く声に耳を傾けること。そして誰かの心から寄り添いたい、わかりたいという思いがその傷を少しずつでも癒していくのだろう。

 きっとドラマを観ていると、この人の痛みには共感できると思う時と、この人の痛みは理解できないと思う時の両方があっただろう。百音がなぜあそこまで、何の役にも立てなかったという不甲斐なさに打ちのめされたのか、全くわからない人もいたはず。

 だけど大事なのはその中身ではなく、百音が、未知が、亮が、それぞれの痛みを抱えていたということ。痛みの種類や大きさは違っても、「痛い」と感じる瞬間は誰にでも訪れる。自分と同じように相手も痛みを感じる人間だと理解することが前提にあり、その上で百音や菅波は互いに寄り添った。そんな2人を耕治(内野聖陽)は”ニコイチ”と表現したが、それは一緒くたではなく、2人が“1人”と“1人”で隣り合っているイメージだ。

 私たちがわかり合えないことを突きつけながらも、それぞれがバラバラのまま共に生きていくことはできるという、確かな“希望”を見出してくれた『おかえりモネ』。決してわかりやすいドラマではなかったかもしれないが、ふと痛む心をさすってくれる“手当て”のような温かさを届けてくれた。すでに“モネロス”状態の人も多いが、「誰もが以前よりも苦しい日々を過ごされている中で、最後は希望を感じていただけるように書いたつもりです」(参照:安達奈緒子「最後は希望を感じていただけるように」 『おかえりモネ』執筆を終えて)と安達奈緒子が語るラストを見届けたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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