綿矢りさが考える、リドリー・スコットが特別な理由  『最後の決闘裁判』にみる現代性

綿矢りさが『最後の決闘裁判』にみた現代性

リドリー・スコット監督の作家としてのストイックな姿勢

ーー小説家である綿矢さんから見て、ストーリーテリングに関してはいかがでしょう?

綿矢:同じシーンでも、3人のアングルで描き方が少しずつ異なっていて、「この人はこんなことを感じていたのか」と観ていく内にどんどん新たに分かっていくことがあるんですよね。時間軸ではなく、新しい事実の発見で人の興味を持続させるのは相当難しいと思います。観ている人自身がどの程度映像のディテールを覚えているかでもまた少し変わってくると思うんです。それって小説という形式だとどうしても難しいから、興味深く観ていました。スコット監督自身の編集のスピード感で表現するというのは映画ならではだと思いますね。

ーー映画だからこその面白さだと。

綿矢:推理小説に近い部分はあるかもしれないですが、誰が正しいのかという真実を追求するミステリー的魅力以上に、それぞれの視点を知るうちに彼らが見ている世界そのものを体感できるような気がしました。小説を書いている身としては、クリエイターが登場人物3人全員に対して、どこか醒めていて、リアルにキャラクターを描いている点が興味深かったです。マルグリットも正しいと思うことを主張するという役柄ですが、被害者としてだけでなく強かな一面を持っていたり。

ーーご自身の作品との違いはやはり大きいですか?

綿矢:そうですね。自分の純文学的な世界観とは違って、スコット監督作品は特に、死の匂いが濃いですし、人間の奥底にある欲望を満たしつつスリリングに描くという手法が上手ですよね。登場人物それぞれの保身=アリバイを成立させるために外見や会話も細かく用意周到に作られているように感じました。キャスティングもバッチリですよね。ジョディ・カマー、マット・デイモン、アダム・ドライバーの3人じゃなかったら成立しないんじゃないかとも少し思ってしまいます(笑)。

ーージャンルは違えど、本作から同じ物語を書くものとして受けた刺激はありますか?

綿矢:場面を省略する力と緩急ですね。3つの視点で同じ物語を描くから中だるみするのかなと思いきや、一気に無駄なところは省略してストーリーを進める大胆さがあるし、一方で色恋沙汰、領地の問題、上下関係、戦闘といった直接には決闘裁判とは関係がない外的要因も描くからこそ、登場人物3人それぞれに感情移入することができる。隙がないなと(笑)。自分も簡潔に伝える大切さは意識してはいるんですが、どうしても自分の文章だと削るという作業は勇気も労力も必要ななんです。スコット監督の、自分の作品、編集、登場人物の作り込み方へのストイックさに感服しました。2人の決闘のシーンも、本来だったらアクションという意味でも本能に訴えかけるようなシーンで、テンションが上がるんですが、画面の抑制やそこに至るまでの緻密な構成があるからこそ、ただ観客に戦闘シーンの興奮を味あわせるだけじゃなく、何か重いものを残す。そのギャップこそがスコット作品の魅力なんじゃないかな。

■公開情報
『最後の決闘裁判』
全国公開中
監督:リドリー・スコット
脚本:ニコール・ホロフセナー、マット・デイモン、ベン・アフレック
原作:エリック・ジェイガー(『決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル』)
出演:ジョディ・カマー、マット・デイモン、アダム・ドライバー、ベン・アフレック
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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