ジェームズ・ガンの原点回帰作 『ザ・スーサイド・スクワッド』で描かれた“体制への反抗”
スターロは無理やり宇宙船で地球に連れてこられ、長い間、実験体として閉じ込められてきたキャラクターである。この設定に、アフリカ大陸から船に乗せられ労働力としてアメリカ大陸に連れてこられた黒人奴隷たちの歴史を重ねることもできるし、同時に、開放されたスターロが「この街は私のモノだ」と侵略を開始する姿には、ヨーロッパからアメリカ大陸に渡りネイティブ・アメリカンの土地を植民地化してきた白人たちの歴史を重ねることもできる。ジェームズ・ガン作品の敵は『スリザー』(2006年)や『スーパー!』(2010年)、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017年)、脚本を担当した(本作と同じく「People Who Died」が使用されている)『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)に至るまで、洗脳や同一化、有害な男性性が共通のテーマであり、今回はそれがアメリカ国家の「植民地主義」の歴史と重なり、スターロの星型の姿はまるでアメリカ国旗から飛び出してきたようである。もちろん、スーサイド・スクワッドのメンバーが白い灰にまみれながら戦う姿は原発のメタファーとしてのスターロを想起させ、そこには『ゴジラ』(1954年)や、デザインからは『宇宙人東京に現わる』(1956年)など、怪獣映画の歴史を踏まえていることもわかる。
そんな負の歴史としてのアメリカ=スターロが街を植民地にしようとしているのを目撃したブラッドスポート(イドリス・エルバ)は、責任者アマンダの制止を振り切ってスターロに立ち向かうことを決める。ブラッドスポートは刑務所生活が長く体制を恨んでいるため、スーサイド・スクワッドへの参加の提案も最初は拒否する。自身を捨て駒として消費しようとする体制への反抗として、彼は黙々と刑務所の掃除をしていたのである。地面に這いつくばって床のガムを剥がすのも、スターロとの戦いも、ブラッドスポートにとっては体制への反抗だ。その姿に呼応するように、父親の発明品をまるで自由の女神の松明のように掲げたラットキャッチャー2(ダニエラ・メルシオール)が、ネズミの大群を率いてスターロを倒す。キング・シャーク/ナナウエ(シルヴェスター・スタローン)とラットキャッチャー2の交流がしっかり描かれているため、彼女はネズミを“操る”のではなく、“率いている”ように見える。常に眠そうにしている移民のホームレスで犯罪者ーーどこまでもアウトキャストなラットキャッチー2が市井の人々を率いて体制への反抗を結実させるのである。この世界は私たちが生きててもいい場所なのだと。
ブラッドスポートと娘を再開させるシーンは装入せず、ジャンル映画の形式に乗っ取って、本作をヘリの中で終わらせた判断は素晴らしい。トラウマのせいでネズミ恐怖症になってしまったブラッドスポートのドラマに監督のジェームズ・ガンの姿を重ねるのは容易だろう。ワーナー・ブラザースで原点回帰となる作品を完成させ、恐る恐るトラウマだったネズミ(ディズニー)に歩み寄ろうとする姿。2021年、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の3作目の撮影が開始する。
さて、ディズニーが制作しているMCUはフェーズ4に突入し、フェーズ1からフェーズ3にかけて最大の敵だったサノスが起こした災害の余波もありつつ、新たな敵が現れてしまい、なんと“Multiversal War”(多元宇宙戦争)が勃発、とんでもないことになっている。相変わらず連続シリーズ作品として、完璧な展開を続けているMCUだが、一方で、連続シリーズ作品の道を諦めつつあるワーナー・ブラザースのDC作品は『ジョーカー』(2019年)や今回の『ザ・スーサイド・スクワッド』など、しっかり映画史の文脈とクロスオーバーする単独作で名作を生み出している。マーベルとDC、今めちゃくちゃ面白い!
■公開情報
『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』
全国公開中
監督・脚本:ジェームズ・ガン
製作総指揮: ザック・スナイダー、デボラ・スナイダー、ウォルター・ハマダほか
出演:マーゴット・ロビー、イドリス・エルバ、ジョン・シナ、ジョエル・キナマン、ピーター・キャパルディ、シルヴェスター・スタローン、ヴィオラ・デイヴィス
配給:ワーナー・ブラザース映画
132分/2021年/R15+
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公式サイト:http://thesuicidesquad.jp/
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