『ザ・スーサイド・スクワッド』が前作から引き継いだ精神 ジェームズ・ガンの“成長”も

 とはいえ、本作で暴かれるアメリカ政府の欺瞞や、明らかな“悪”をヴィランたちが見逃さざるを得ないという皮肉な展開は、エアー監督の精神をしっかりと受け継いでいる箇所である。これまでも現実のアメリカ軍は、犯罪歴のある者を入隊させてきたが、近年は入隊者の減少から、凶悪犯罪者を免責してまで、危険な前線に送り込むための人材を確保している。本作で描かれていることは、アメリカ社会にとって現実の写し絵なのである。“大きな悪”が“悪”を利用する……そのシステムをフィクションで描くことこそが、本シリーズの値打ちなのだ。

 触れなければならないのは、ジェームズ・ガン監督が本作を撮ることになった経緯である。彼はTwitterでの差別的な過去発言を掘り起こされたことで、マーベル・スタジオ擁するディズニーから『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズを降ろされることとなり、そこでガン監督をワーナーが拾ったかたちになった。企業のイメージを大事にするディズニーとして、彼の発言内容を看過できなかったのは当然である。その後、ガン監督が過去の発言を反省する姿勢をとり続けたことで、最終的にはシリーズの復帰が叶うことになったのである。

 このディズニーの決断には、様々な意見もあるだろうが、少なくともガン監督が、差別的な見方を反映させたネタを、今後の作品で安易に使うことは考えにくい……というのは確かだろう。本作は、たしかに不謹慎に思える描写や過激な暴力が描かれているが、そこに意味を込めることで、暴力賛美に陥ることを防いでいる。

 最も分かりやすいのは、ジョン・シナ(『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』)演じる、アメリカの愛国者として暴走する、ピースメーカーというキャラクターの存在だ。高潔な理想や誇りを持った人物に見えて、その誇りを守るために悪に染まることもできるのである。同時に彼が体現する“男らしさ”が彼自身を狂わせ、終わらない暴力の世界に突入していく様も、本作は描いている。

 この男の悲劇を描くことは、ジェームズ・ガン監督にとって、ある意味で自身の内面を描くことと同義なのかもしれない。ちなみに、このピースメーカーについては、ジェームズ・ガンの製作総指揮によって彼を主人公にしたTVドラマが製作されることが、先日発表されている。

 敵を次々に殺害しながらも、子どもを犠牲にすることだけは絶対に許せないハーレイ・クインや、イタチのウィーゼルの顛末……。本作は凶悪で過激な描写を続けながらも、その中心に優しい視線が絶えず存在する。だからこそ、過激な描写を娯楽映画として提供できることもできるのである。その姿勢は商業的なポーズととらえることも可能だが、このあたたかさが、現在までのガン監督の成長による変化を表しているのだとするならば、良い傾向といえるのではないだろうか。そして同時に本作の存在は、過激な描写や暴力的な描写自体が、ポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)に反する要素にはなり得ないという事実を伝えているともいえよう。

■公開情報
『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』
全国公開中
監督・脚本:ジェームズ・ガン
製作総指揮: ザック・スナイダー、デボラ・スナイダー、ウォルター・ハマダほか
出演:マーゴット・ロビー、イドリス・エルバ、ジョン・シナ、ジョエル・キナマン、ピーター・キャパルディ、シルヴェスター・スタローン、ヴィオラ・デイヴィス
配給:ワーナー・ブラザース映画
132分/2021年/R15+
(c)2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c)DC Comics
公式サイト:http://thesuicidesquad.jp/
DC公式Twitter:https://twitter.com/dc_jp
DC公式Instagram:https://www.instagram.com/dcjapan/

関連記事