ドイツの実在サイバー犯罪をドラマ化 『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』がおもしろい
Netflixの台頭が視聴者に授けた大きなメリットの一つは、世界におけるアニメブームや日本における韓国ドラマブームも然り、英語以外の言語作品を世界中に流通させたことだ。7月27日からシーズン3が配信されている『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』は、ドイツの高校生版『ブレイキング・バッド』、ドラッグ版『ソーシャル・ネットワーク』のような、ストリーミングエンターテインメント時代を享受した作品。創作としてもかなりぶっ飛んだ設定だと思っていたら、ドイツで実際に起きたサイバー犯罪が原案だと知り驚愕する。たった1人でネット上の仮想ドラッグストアを開設し、410万ユーロ(約5億3000万円)相当のビットコインを得ていた19歳(当時)、マクシミリアン・シュミット自身が犯行を再現するドキュメンタリー『Shiney_Flakes:こうして僕は麻薬王になった』も8月3日より配信されている。
まず、フィクション版の『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』から。冴えない高校生のモーリツは、アメリカ留学から戻ったガールフレンドのリサがパーティアニマルに豹変し、MDMAやエクスタシーなどを常用していることを知る。リサの気を引くために、親友レニーをけしかけてドラッグのネット販売を始めるモーリツ。ビジネスは成功するが、想像通りあらゆるトラブルに巻き込まれていく。
モー(リサはモーリツをこう呼ぶ)の風貌は高校生を演じるには厳しいものがあるが、難病に冒されたテックナードのレニー、学校の人気者のイケメンなのになぜかモーとレニーとつるむことになる『ストレンジャー・シングス 未知の世界』で言うところのスティーブ的な立ち位置のダン、好奇心旺盛なリサ(字幕が不安定なため、シーズン1ではリーザ)、レニーとバーチャルに知り合うハッカーのキーラなど、キャラクターが全員立っていて、彼らを観ているだけでとにかく楽しい。ドイツのドラマ賞で編集賞を受賞していることが物語るように、スピーディで遊びのある演出と編集で1話30分のエピソードがあっという間に過ぎていく。セリフには世界のポップカルチャーのキーワードが詰め込まれ、シーズン3のクライマックスの卒業パーティのシーンは見るからに『ストレンジャー・シングス』オマージュ。彼らの仮装が『タイガー・キング:ブリーダーは虎より強者?!』(2020年)や、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(2017年~)からなのも、もはや映像エンターテインメントの流行に国境などないことが現れている。Netflixのユーザーインターフェースをおちょくった演出も最初にやった者勝ちだ。友達がいたり、一定期間住んでみないとわからないドイツの高校生の日常をほんの少し覗き見することができる。これがドイツの高校生の日常だと世界に認知されるのも心外だろうが……。
2019年から1年に1シーズンのペースで配信されていた『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』がシーズン3で一応の完結を迎えた1週間後に配信されたドキュメンタリー『Shiney_Flakes:こうして僕は麻薬王になった』を観ると、現実はドラマよりもドラマチックだったことが明らかになる。2015年2月に逮捕されたマクシミリアン・シュミットは19歳。およそ14ヶ月にわたりたった1人で違法ドラッグをネット上で売り捌き、410万ユーロもの売上金をネット上にプールしていた。犯行の全てを親と同居する家の自室で行い、郵送には普通郵便を使っていたことも捜査上の盲点になった。マキシミリアンが設計したバーチャルストアのセキュリティは万全でカスタマーにとっては5つ星のサービスだが、捜査にあたったドイツ警察にとってはまさに悪夢。しかも売上金は“想定額”で、ビットコインの所在はまだ突き止められていないという。ドラマでモーを演じていた俳優の名前も同じマクシミリアンだが、実在の本人のほうがより俳優らしい風貌なのもツイストとなっている。