MCUにモンスターバース、『ワイスピ』まで ハリウッド大作ユニバース化の背景を探る

ユニバースを構成する2つの柱

 長大なユニバース世界をいかに組み立てるのか。スターやクリエイター、キャラクター版権所持者との契約関係をクリアにしながら、製作者たちは日々頭を悩ませている。ユニバースのシリーズを構成する柱は、主としてキャラクター同士の関係性と時間軸の2つだ。

 キャラクター同士がどのような関係なのか、このキャラクター同士が出会ったらどんな展開が待っているのか、あの時敵対していたキャラクター同士が手を組んだらどうなるか。

 これらの展開はクロスオーバー作品の醍醐味と言える。例えば、ニューヨーク出身同士のアイアンマンとスパイダーマンが出会ったらどんなことが起きるのか、キャプテン・アメリカの盾を受け継ぐのは誰なのか、ホークアイのために命を落としたブラック・ウィドウ、その妹はホークアイに対してどう思っているのか……などなど。MCUはキャラクター同士の関係性を起点に世界をどんどん広げていく。

 同時に、MCUは2つの事件の空白の期間になにがあったのかを描くという視点も忘れていない。『ブラック・ウィドウ』はこの観点から製作されていると言え、2つの柱をバランスよく考えて作られている。

『ブラック・ウィドウ』(c)Marvel Studios 2021

 『ワイスピ』は徹底してキャラクター同士の関係性の物語と言える。ファミリーと呼ぶ仲間たちとのつながりを重視する同シリーズはキャラクター同士の関係性こそ魅力の本質と言える。初のスピンオフとなった『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』もホッブスとショーのライバル関係を軸に構成された。3作目の『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』は時間軸が飛んでいるが、これはシリーズ初期の試行錯誤の段階でのことなので、戦略的な配置ではないだろう。

 DCEUも現在、各キャラクターを中心にシリーズを重ねているが、今後、キャラクター同士の邂逅も再び描かれるようになるのではないか。

『マンダロリアン』 ディズニープラスにて独占配信中 (c)2020 Lucasfilm Ltd.

 一方で、『SW』シリーズでは時系列が重要になる。エピソード3と4の間で何が起きたのか、『ローグ・ワン』はその空白の期間に名も無きレジスタンスの活躍を描いた作品だった。『マンダロリアン』はエピソード6と7の間の物語である。シリーズの展開があたかも歴史の年表の穴を埋めるかのように展開されていて、今後もあの「事件と事件の間」をつなぐような物語が作られていく可能性が大きい。

 『ハリー・ポッター』の魔法ワールドでも時間軸が重要になりそうだ。ハリーがホグワーツに入学したのは90年代で、『ファンタビ』シリーズは1920年代が舞台。しかし、そのはるか昔から魔法は存在し、様々な歴史が作中で語られている。その歴史年表を埋めていくだけで膨大な物語を生み出すことができるだろう。

 モンスターバースも主役が人間ではないので、キャラクター同士の関係性を起点にはシリーズを構成しにくい。と思いきや、ゴジラとコングの戦いが描かれた壁画を出すなど、キャラクター同士の関係で作りだそうと試みているのはユニークな点と言えるかもしれない。

 その世界に生きる者同士のつながりと歴史の紬を再現するのが長期シリーズの醍醐味と言える。それはまさに歴史をゼロから生み出す魅力と言えるかもしれない。そして、その歴史を目撃できることが、単発の作品にない、ユニバース作品の魅力と言えるだろう。映画という作品を鑑賞するというより、歴史の目撃者になれるような興奮があることがユニバース作品の特徴だ。

■公開情報
『ブラック・ウィドウ』
映画館&ディズニープラス プレミアアクセスにて公開中
※プレミアアクセスは追加支払いが必要
監督:ケイト・ショートランド
出演:スカーレット・ヨハンソン、フローレンス・ピュー、レイチェル・ワイズ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)Marvel Studios 2021

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