細田守と新海誠、2大ヒット作家が“都市と田舎”を扱う理由 写実的な描写の姿勢は真逆?

細田守と新海誠が“都市と田舎”を扱う理由

場所の固有性を描く細田守

 細田監督の最新作『竜とそばかすの姫』は、高知県にすむ女子高校生が主人公だ。なぜ高知県なのか、細田監督は明快にその理由を語っている。

「高知は、坂本龍馬が出て明治維新の中心的な場所だったり、南国といったポジティブなイメージがありますが、調べてみたら人口が全国で3番目に少ない。もっと言えば、限界集落という言葉が生まれた場所。要は、人口減少という日本の未来を示す、象徴的な場所だったんです」(参照:細田守監督『竜とそばかすの姫』 制作は世界とコラボ|NIKKEI STYLE

 本作に登場するインタビュー上のコミュニティ「U」は、全世界のユーザー数が50億人いるという。世界中の人々が集まるその世界に対置させる場所として、限界集落という言葉が生まれた土地を設定した。

 細田監督はネットの世界を題材にした映画を3本作っているが、いずれの作品でも田舎が登場する。

 『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』では、メインキャラクターの石田ヤマトと高石タケルが島根に帰省していて、ネットに接続するために端末を探して市中を走り回る。島根を選んだ理由を、細田監督は「島根の方には申し訳ないけど、パソコンを探すのに苦労しそうな場所」と語っている(参照:[再録]特集「アニメの技術を考える」クリエイター 創作の秘密 細田守インタビュー|WEBアニメスタイル)。

 では、『サマーウォーズ』はどうか。この作品では長野県上田市が舞台となるが、その土地ゆらいの発想や地域行事がより細かく描かれる。『サマーウォーズ』で主人公たちを脅かすのは、ラブマシーンという人工知能だ。それに対する主人公たちの危機を救うのは、祖母の陣内栄を中心とするローカルな人的ネットワークだ。

 さらに本作では上田という土地に根付く、かつて徳川を倒したという自負が物語の中でも描かれる。人工知能がハッキングによって集めた巨大な陣営を、徳川陣営に見立てて戦略を練るようなシークエンスもあり、上田であることが大きな意味を持つ内容となっている。

 細田監督は、新海監督と比べて、地方も含めてその土地の固有の歴史にこだわりを持って描いていると思われる。『サマーウォーズ』の上田市は典型的だが、横浜が舞台の『未来のミライ』では、磯子区と金沢区の間あたりの埋立地を選んでいる。主人公が過去の同じ場所に飛んだりすることで、この土地の歴史に目を向けている。細田監督曰く、「埋立地は変化が激しく、これまでも大きく変わってきた。そして、未来に向けても変化していく場所」であるという(参照:「これからも変化していくであろう場所を舞台にしたかった」細田守監督『未来のミライ』の舞台を語る|WALKER PLUS)。4歳の男の子が、これから長い時間をかけて成長していく主人公の未来はどのように街は変化するのか、そんなことを思わせる舞台選択だ。

 再び、「竜とそばかすの姫」に話を戻す。本作は地元高知の新聞記者にもその風景描写は高く評価されたようだ。高知新聞では、「高知の風景描写は想像を上回ると言っていい。高岡郡越知町の浅尾沈下橋や高知市の鏡川沿いだけでなく、主人公の家、JR駅や駅前、バス停や直販所などが数多く描かれた。たとえ現地に行ったことがなくても、高知だと分かる」とし、「自然豊かな日本の田舎」の記号性だけをすくい取られたものではないと評している(参照:こうち★Showえいが「竜とそばかすの姫」|高知新聞)。

 地方を含めた土地の歴史や固有性にこだわるあたり、細田監督は「ファスト風土化」に抗うタイプの作家なのかもしれない。

 本作の舞台設定でもう一つ考えるべきは、「U」の世界で竜である人物が川崎市寄りの大田区の住宅地に住んでいて、親から虐待を受けているということだ。後半で、主人公はそのことを突き止め、直接彼を助けに行く。

 やや強引な展開だが、物理的な距離感を喪失したインターネットの世界に対して、電車と夜行バスを乗り継ぎ一日かけてたどり着くという、ネット世界との距離と時間の違いが強調される。距離を強調するなら、北海道でもいいわけだが、東京近郊であるのは、距離以外にも人間関係の濃密さなど、様々なことを田舎と対比させるためではないか。

 細田作品では、新海作品ほど、都会が良い場所として描かれないように思われる。虐待を受ける竜の少年もそうだが、『おおかみこどもの雨と雪』では、主人公は、おおかみの血を引く2人の子供を、都会では育てられないと判断し、富山の山奥に引っ越す。細田作品では、むしろ、田舎の人のつながりの方が肯定的に描かれることの方が多い。

 こうして比較してみると、細田監督と新海監督、どちらも都市と田舎をフォトリアルな描写で緻密に描くが、意外にその姿勢は対照的と言えるかもしれない。繁栄する都市と衰退する地方に分断された現代日本は、新海監督にとって引き裂かれた男女の淡い恋を描くために適した舞台で、細田監督はそうした衰退する地方をつぶさに見つめて、そこでいかに人は生きていくのかを描く。舞台選びという視点で映画を観ると、その物語も違った見え方がしてくるものだ。

■公開情報
『竜とそばかすの姫』
全国東宝系にて公開中
監督・脚本・原作:細田守
声の出演:中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、森川智之、津田健次郎、小山茉美、宮野真守、役所広司ほか
企画・制作:スタジオ地図
製作幹事:スタジオ地図有限責任事業組合(LLP)・日本テレビ放送網共同幹事
配給:東宝
(c)2021 スタジオ地図
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