亀梨和也主演『正義の天秤』で話題 時代と密接した「NHK土曜ドラマ」は“いま”注目の枠
亀梨和也(KAT-TUN)がNHKドラマ初出演にして初主演を務める土曜ドラマ『正義の天秤』が早くも話題だ。今作で初めてNHK「土曜ドラマ」を観る人もいるのでは。二大看板の朝ドラや大河ドラマと比べるとお茶の間の認識度は低いかもしれないが、放送開始は1975年と歴史は長い。近年では安達奈緒子作『サギデカ』(2019年)など、多くの社会派ドラマを世に送り出す“いま”注目の枠だ。
NHK「土曜ドラマ」の特徴を挙げるとしたら、たいてい4、5話で完結することなのだが、あくまでも傾向の一つに過ぎない。インスタントうどんの青虫混入ツイートから世間を賑わす大事件に発展した野木亜紀子作『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』(2018年)は全2回、ムロツヨシがトランスジェンダーを演じた『三浦部長、本日付けで女性になります。』(2020年)は単発での放送だった。改めて考えてみると、同局の「ドラマ10」(金曜22時枠)よりも自由度が高く、放送開始時期や回数に縛られずに、“いま”伝えたい作品をコンスタントに制作している印象だ。精神ケアの第一人者・安克昌をモデルに、映画化もされた『心の傷を癒すということ』も「土曜ドラマ」から生まれた物語なのである。
この2021年は特に強いメッセージ性を感じる作品が「土曜ドラマ」内でもつづいた。4月期の『今ここにある危機とぼくの好感度について』は、イケメンアナウンサーから国立大学の広報官へと転職した神崎(松坂桃李)が主人公だ。彼の特徴はなんといっても“自分の言葉で語らない”こと。好感度を気にするあまり、被災地のレポートですら「なんというか……なんも言えないっすね……」と平気で言ってしまうような神崎が、女性ポスドク(博士研究員)の内部告発を皮切りに、次から次へと“危機”に見舞われる。とりわけ終盤の展開は、新型コロナウイルスや東京オリンピックで揺れる2021年の“いま”と重なりすぎてしまい、視聴者をざわつかせた。本来ならば昨年10月に放送予定だったのも驚きである。
しかし、笑ってしまうほど徹底した神崎の“語らなさ”は、現代社会で強者になれないと悟った彼なりの悲しき“生存戦略”だった。権力者や著名人が余計な一言で足元をすくわれた様子を、まざまざと見てきたアナウンサー時代も大きく作用しているのだろう。神崎の事なかれ主義は好感度を上げることも著しく下げることもなかったが、語らない姿勢は内側から彼を蝕み、いざ考えようとしても何も浮かばない空虚な人間を作り出してしまったのだ。
あらゆる危機が降りかかろうとも頑なに変わらない神崎だったが、自身の健康に危険が及び、ようやく重い腰を上げる。日本科学の未来のために本名と顔を晒したポスドク・みのり(鈴木杏)や、腐敗しきった組織を生まれ変わらせる決意をした大学総長(松重豊)に比べて間抜けな感じは拭えないものの、神崎が一歩踏み出せたこと、複雑なことが嫌いで世界が単純なものであってほしいと願っていた彼が「この頃はちょっとだけ簡単に見えるようになった気もしている」ラストには希望を感じた。それでも、ハッピーエンドの余韻と共にじわじわと込み上げてきた隠しようのない苦みは、今作が“単純”な物語ではないことを何よりも示している。