“考察”ブームが後押しした、トレンド1位連発 横川良明が『MIU404』の熱狂を紐解く

『MIU404』の熱狂を紐解く

 7月20日に評論集『脚本家・野木亜紀子の時代』がリアルサウンド運営元の株式会社blueprintより刊行される。

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 同著は、「リアルサウンド映画部」にてドラマ評論を執筆する7名のライターによる書き下ろしの共著。脚本家の野木亜紀子が注目されるきっかけとなった『重版出来!』(TBS系)から、社会現象を巻き起こした『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、以下『逃げ恥』)、そして脚本家として不動の地位を築いた『MIU404』(TBS系)まで、代表作7タイトルを中心に取り上げながら、現代社会を鋭く照射する野木ドラマの深い魅力に迫る内容となる。

 今回、同著に収録される『MIU404』を横川良明氏が執筆した「かつてない“ブロマンス”はなぜ人々を熱狂させたのか」より、一部を掲載する。

つい役名で呼びたくなる魅力的な人物造形力

『脚本家・野木亜紀子の時代』(blueprint)

 『MIU404』以前の野木亜紀子は女性を描く作家として評価が高かった。代表作である『アンナチュラル』(TBS系)や『獣になれない私たち』(日本テレビ系)にはフェミニズムの視点が通底しているし、『MIU404』でも男社会の中で信念を貫く桔梗ゆづるのキャラクターは多くの支持を集めた。野木作品に登場する女性像に共感や憧れを抱く視聴者も少なくないだろう。

 だが、実は女性もさることながら、男性を魅力的に描くことに長けた作家だと思う。その代表例が、『逃げるは恥だが役に立つ』の津崎平匡(星野源)であり、『アンナチュラル』の中堂系(井浦新)だ。もちろん『逃げ恥』は海野つなみの原作があっての作品であり、基本的な人物造形は原作をベースにしている。その上で、ドラマの平匡さんに付加されたあの人間味溢れる愛らしさは、間違いなく『逃げ恥』人気の核となったものであり、それは演じた星野源の功績であり、脚本を手がけた野木の功績でもある。『アンナチュラル』の中堂さんは、オリジナル作品である分、さらに分かりやすい。腕は確かだが、口が悪く愛想もない、パワハラ上等の中堂さんは、ともすると拒否反応が起きかねないキャラクターだ。だが、主人公の三澄ミコト(石原さとみ)に「中堂さんって相当感じ悪いですよ」と指摘されて動転したり、「クソ」発言禁止の誓約書を書かされたりと、憎めない部分も多く、『アンナチュラル』きっての人気キャラとなった。野木はこうした男のかわいげや隙を描くのが抜群にうまい。

 伊吹(綾野剛)でいえば、ベトナム人留学生のマイ(フォンチー)に「イブキ、いらない」とあっさりフラれながら「君はまだ俺の魅力に気付いてない」と粘ったり、ハムちゃん(黒川智花)からハートマーク付きのメッセージをもらって浮かれたり、気になる女性に対しては単純そのもの。小学生のような恋愛スキルが親しみやすさにつながった。一方、志摩(星野源)はとっつきにくい性格と思いきや、メロンパンの金額を真面目に考えていたり、桔梗をほのかに慕いつつもまるで脈がなかったり、そこかしこが隙だらけ。でもそれが、仕事面での有能さとのギャップを生み、愛着に転化した。

 こうした男性描写のうまさは、伊吹や志摩に限らない。最初は合理主義のエリートに見えた九重世人(岡田健史)が感情的になると博多弁が出たり、強面の陣馬耕平(橋本じゅん)が「どいつもこいつもよ、俺が時代遅れのオヤジだってバカにしやがって……」と泣き出したり。普段は風見鶏の我孫子豆治(生瀬勝久)が珍しく勇ましい声で部下を一喝したかと思いきや「いつかパワハラで訴えられるな」とぼやいたり。野木は意図的に男性キャラからマチズモを取り除き、何かしらかわいらしい要素を付加している。「男は度胸、女は愛嬌」なんて死語があるが、野木の描くキャラクターは男女問わず度胸と愛嬌を兼ね備えているのが特徴だ。だから、視聴者は身近に感じられるし、つい「伊吹」「志摩」「九ちゃん」「陣馬さん」と役名で呼びたくなる。その魅力的な人物造形力が、熱烈なファンダムを形成した理由のひとつであることは間違いない。

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