『ここぼく』最終話は希望を示すエンディングに 松坂桃李が叫ぶ“好感度”の正体

『ここぼく』最終話は希望を示すエンディング

 言葉を貶めるのは偽りや嘘だけではない。好感度も同じだ。意味のある言葉は敵・味方を生んでしまうから、「意味のないことをしゃべる」真の戦略はある意味正解である。好感度を追い求めてきた真が、言葉によって保身を図る大学という組織の広報になったことは必然性があった。真は新聞部のコウスケ(坂東龍汰)に叫ぶ。「世の中ってのはそういうもんなの。負け組は負けるしかないし、少数派は多数派の犠牲になるしかないんだよ。だから好感度なの!」真ほどあからさまでなくても、生きていくために愛想を振りまき、忖度している人は多いはずだ。

 ますます軽くなっていく言葉。一方、この世界は複雑でわかりにくい。真実を前に立ち尽くすしかできなかった真も、みのりとの再会をきっかけに変化の兆しが現れる。第3話がターニングポイントで、教え子に心を動かされた三芳が事なかれ主義に一石を投じた。真は蚊に刺されて当事者になったことで、初めて自らの意志で言葉を発し、最終話はかすかに希望を残すようなエンディングとなった。

 真実から目を逸らさせ、意味を漂白する無言の圧力。その流れに抗するのは頭で考える以上に困難だ。真実と向き合う鍛錬を積んで来た三芳をして「長く厳しい闘いになる」と言わしめた通りである。正しい名前を付けるのは難しいが、それでもやり遂げなくてはならない。この世界で本当の意味で生きようとするのなら。好感度という他者の視線を離れた時、真は少しだけ自分を好きになれたのではないか。それは世界と出会った瞬間だった。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■作品情報
土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』
出演:松坂桃李、鈴木杏、渡辺いっけい、高橋和也、池田成志、温水洋一、斉木しげる、安藤玉恵、岩井勇気、坂東龍汰、吉川愛、若林拓也、坂西良太、國村隼、古舘寛治、岩松了、松重豊ほか
作:渡辺あや
音楽:清水靖晃
語り:伊武雅刀
制作統括:勝田夏子、訓覇圭
演出:柴田岳志、堀切園健太郎
写真提供=NHK

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